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ただでさえ憂鬱な期末試験は、予想通り散々な結果で終わった。僕――星野慎一は、今すぐにでも抹殺したい成績表を持って、家路についていた。 いつからだろう、こんな風になったのは。 昔――といっても数年前だけど――は、決して勉強は苦手ではなかった。学校でも、それなりに友達付き合いがあって、楽しかった。 父が、罪を犯すまでは。 ほんの些細な行き違いから口論になって、相手は父を殴りつけてきた。危険を感じた父は、そこにあった大きな灰皿で、相手の頭を殴打して・・・・・・、殺してしまったらしい。 目撃者が居なかったのが、父にとっての不幸だった。正当防衛ということだったが、近辺では、あることないこと、大小さまざまな噂が飛び交った。・・・・・・その火の粉は、僕達家族にも及んだ。 逃げるように、住み慣れた地を後にした。僕は現在、祖父母の所で暮らしている。 なるべく人の通らないような裏道を歩く。とにかく、人付き合いが恐かった。殺人者の息子だとばれるのが恐かった。 「た・・・・・・す、け・・・・・・」 「えっ?」 なんだ? どこかから、声が聞こえた。慌てて周りを見渡すが、誰も居ない。 「助、け、て・・・・・・」 まただ。怪奇現象かとも思ったが、違った。 僕の足元に、15センチほどの青い髪の少女がいた。・・・・・・我ながら、変な形容だと思う。 そうだ、思い出した。最近色々と話題になっている、武装神姫。でも、そんなのがどうしてここに? 「助けて、くだ、さい・・・・・・」 その時僕は、なぜかこの娘を助ける気になっていた。今にして思えば、彼女が人じゃないから・・・・・・。そんな考えも働いていたのかも知れない。 「ありがとうございました・・・・・・」 彼女は僕の机の上でそう言った。よく見ると、身体には無数の傷がある。 「うん・・・・・・、あ、僕は星野慎一。えっと・・・・・・、とりあえず、よろしく」 「慎一・・・・・・様。私は悪魔型MMSタイプ『ストラーフ』、個体名ネロ、と申します」 ・・・・・・なんて呼べばいいんだろう? 聞いてみたところ、 「ネロ、で結構です、慎一様」 とのことだった。それにしても、 「様付けってのはなんかちょっと照れくさいなあ・・・・・・。僕のことも慎一でいいよ」 これが、僕の運命を大きく変える出会いだった。 幻の物語トップへ
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前を見た少女と、煌めく神の姫達(その一) ──もう、手放さない。滅びが分かつまで、愛しき姉妹と共に生きよう。 “妹”達の笑顔の為ならば私は尚の事、己の全てを神姫に捧げていこう。 それが……共に歩んでいく彼女らに対し、私が捧げられる“誓い”──。 第一節:訣別 “悪夢”の暴威が去った翌朝。私・槇野晶は、朝一番の電車で出かけた。 行き先は東杜田技研。勿論“四人の妹達”……アルマとロッテ、クララに 昨日から加わったエルナも一緒だ。但し、彼女らは目を醒まさない……。 あまりに受けたダメージが大きすぎたのか、一様に酷い不調を訴えてな。 なので私は、ありったけの修理用部品を持って東杜田技研を頼ったのだ。 「……私を置いて逝くには、まだ早いよ。まだ、色々あるんだから……」 「晶ちゃん?おーい、あーきーらーちゃーん?何ブツブツ言ってるのさ」 「どわっ!?げふ、げふっ!ど、ドクターではないか何時からそこに!」 「ん?たった今。一通り終わったから、再起動前に色々説明したくてね」 ベンチに座って祈っていた私は、掛けられた声に素っ頓狂な声を上げる。 ……聞かれなかっただろうな?この“言葉”は、あまり出す物ではない。 ともあれ私の眼前では白衣姿のDr.CTaが、マスクをくるくる回していた。 悲壮感のない表情からすると、“手術”自体は成功した様なのだが……。 「ドクター、どうなのだ?私の“妹”達は無事か、無事なのかッ!?」 「はぃドードー。焦っちゃって晶ちゃんらしくないぞ?落ち着けー?」 「む、す……すまん。色々とあって……私では直し切れなんだのでな」 そう。私では手が出ないレベルの修理や改造も、色々と必要だったのだ。 そう言う経緯もあって逸る私を、Dr.CTaは宥めながら別室へと案内した。 そこは、処置室を外部から観察する為の……硝子張りの部屋だった。目を 少し下に降ろせば、作業台の上には少々痛々しい姿の四人が眠っている。 「んー、まずは……ロッテちゃん達三人の方から説明しようかなっと?」 「宜しく頼む。特にアルマとクララは、奇妙な病を起こしているからな」 「それも多少分かってるさ。まぁとりあえずは……皆、酷い損耗だねぇ」 「これがカルテか……全員四肢のモーターが焼き切れている、だと!?」 「そそ。一体どこでこんな無茶させたのさ晶ちゃん、って位の重傷だね」 ドクターが示したマイクロマシン用検査器具のログを見て、私は戦慄く。 何と、ロッテまでも含めた“三姉妹”全員の駆動系が焼損していたのだ! ヴァーチャルフィールドで起きていた筈の出来事なのに、どういう事だ? 「むぅ……ヴァーチャルフィールドで、相当無謀なバトルをしていたが」 「じゃ、そのセンかな?“何か”の影響でフィードバックした情報がさ」 「有無。知らず知らず、皆の躯を突き動かしていたのか……しかしなぁ」 「超AIやCSCも、あちこち傷があったからねぇ。可能性は大きいよ」 ログには確かに、アルマとクララのCSC……そして皆の超AIに相応の 負荷が掛かっていた事を示す値が印されている。一部は、結構深刻な傷と なっていた様だが……Dr.CTaは、その処置もしっかりとしてくれた様だ。 物理・論理……両方の傷を癒し皆の命を維持する、見事な“技”だった! これほど完璧に修復されているのならば、当面は安心して良さそうだな。 「なるほど……こんな方法で修復したか。流石は手練れの“技術者”だ」 「結構離れ業だったけどねー。でも、何したらこうなったのさ本当に?」 「そうだな。ドクターには話してもいいだろう、これまでの恩義もある」 それに報いるべく、という訳でもないが……私は起きた事の全てを語る。 エルナの正体、彼女を止める為に挑んだ大一番。そして事後に襲来した、 あの“悪夢”を。それを聞き、彼女の表情は少し引き締まった物となる。 「へぇ……テロなんかの為に、MMS……というか神姫をねぇ。外道だね」 「外道と思うが、彼女……“ロキ”だったエルナの否定にはならんぞ?」 「そりゃそーだね。エルナちゃんは愛されたかった、それだけだろうし」 「そのエルナは、注文通りにやってくれたか?違法な部品の撤去と……」 「皆まで言わなくて大丈夫。塗装以外は、“姉”を参考にやっといたよ」 固定武装と“武装神姫”のレギュレーションを越えた部品の撤去、それに 伴った、私の持ち込んだ部品による修理。他にも色々と注文を付けたが、 それを言い連ねようとした私を制する形で、彼女はその成功を裏付けた。 「そ、そうか。それなら何よりだが……そう言えば、エルナの様態は?」 「アルマちゃん達以上に酷かったよ。もう少しでバーストしたかもねぇ」 さらっと言ってのける辺りはドクターらしいが……本当に彼女は、破滅の 寸前だったのだ。どうにか助けられた事に、私は改めて胸をなで下ろす。 そうしていると、彼女は私の前で唸り始めたのだ。とても神妙な顔でな。 「しっかし、“悪夢”と“約束の翼”ね……神姫の“心”の力かな……」 「……どういう事だドクター?チェックの過程で、思い当たる節でも?」 「大体ねー。まずは“悪夢”だけど、これの大元は普通のウィルスだよ」 「何?普通の……と言う事は、コンピュータ用のワームウィルス辺りか」 「うん。八割位壊れてたけど、“変質”したコードの残滓は見つけたさ」 Dr.CTaが語る所によると、エルナの……殆ど破損した……補助記憶装置と アルマ・クララの現行型CSC三基に、そのコードが残っていたらしい。 だが、元となるウィルスはMMSの超AIやCSCを侵蝕する類ではない。 しかし調べた限りでは、機能が激変する程の“改竄”が見られたそうだ。 「……でも作った連中がそこまでやったとは考えにくくてさ。となれば」 「エルナが憎悪を膨らませる過程で、知らずに己の“毒”を精錬した?」 「あたしゃそう睨んでる。で“約束の翼”だっけ?これは“ワクチン”」 「“ワクチン”だと?だが、対コンピュータ用のワクチンソフトは……」 「入れないね普通。でも、あの透明なCSCにあった物は間違いないよ」 首を捻りつつ、私は推論する。ひょっとしてアレは“ワクチン”ではなく “抗体”なのではないか?“プロト・クリスタル”にのみ発生したという 指摘を踏まえると、歩姉さんが遺した“大いなる遺産”かもしれないが、 私の知る限りでは妖しいルーチンは存在しない。となれば“悪夢”同様、 三姉妹の“心”が繋がった事で産み出された“即興詩”なのかもしれん。 「で、問題は……どっちも破損して動かない事と、規約に引っかかる事」 「つまり、各々のデータを遺すか消すか。選択しなければならんのか?」 「そーなるね。起動してないのは、確認しときたかったから……でもさ」 「む、何だ?調査用に別個コピーしておこうという考えでもあるのか?」 「んにゃ、殆ど壊れてるから解析は無理さね。第一、エルナちゃんって」 『神姫として生きていくつもりなんでしょ?』と笑ってみせるドクター。 聞けば、なんと彼女はその小さな胸に三個のCSCを備えていたという。 そう……エルナの身体構造は基本的に神姫と酷似しており、今回の修理で 完全にオリジナル型神姫として通用する躯になっていたのだ。故にこそ、 唯一公式バトルに出る際の障害となる、残存データの処遇が問題となる。 「……分かった、消してくれ。未来を歩む彼女らには、最早不要だろう」 「オッケー、じゃ早速やってくる。動作チェックが終わったら完了だよ」 「本当に済まないな、ドクター。この埋め合わせは、何れ必ずしよう!」 「ホント?それじゃ今度、お言葉に甘えちゃおうかな。にっしっし……」 楽しそうな笑顔を浮かべて、彼女は部屋を後にした。そう、未来に向かう 四人の“妹”達……そして私に“悪夢”は、もう要らない。そして過去の 残滓も、最早無用の物。歩姉さんの遺志を受け継ぐ“遺産”は、現状でも 十分にある。私達は、ある意味過去と“訣別”する事を選んだのだ……。 「歩姉さん、クリスティアーネ。私達を見守ってくれて、有り難う」 ──────そして、さようなら。志は、大切に受け継いでいくよ。 第二節:姉妹 東杜田技研を後にして、私はMMSショップ“ALChemist”へと戻ってきた。 今日は当然ながら臨時休業。私は出来た時間を最大限使い、“四姉妹”の 補修で痛んだ素体塗装を復元する。無論エルナも、全身の修復された痕を 隠す為、菫色と肌色をベースとした物に変更する。作業はすぐ終了した! 「ふぅ……よし、これでいいだろう。さぁ皆、目を醒ましてくれよ……」 「チェック……OK──ん、ぅ……あれ、ここはお店の作業台ですか?」 「……そうみたい、なんだよ。頭もスッキリしてるし、躯も快調だもん」 「戦闘後は具合悪かったですけど、今はちゃんと治ったみたいですの♪」 「うむ。おはよう、皆……そして、連戦本当に御苦労だった。見事だぞ」 アルマを初めとして、ロッテ・クララと火が灯っていく。徹底的に全身を 検査・修復された三人の表情は一様に明るく、私に微笑んでくれた。だが 今日からはもう一人……皆の笑顔を受け微笑むだろう娘が増える。そう、 まだ敢えて電源を入れていない、“五女”にして紫の姫・エルナの事だ。 「さ、服を着たら皆で見に来てくれ。この様な感じになったがどうだ?」 「わぁ……綺麗ですの~♪マイスター、早く起こしてあげて下さいの!」 「急かすな。皆、大丈夫だな……?よしっ、では始動コードを……っと」 「──────ジステム、グリューン……機動……ん、躯が軽いわね?」 『おはよう、エルナ!!!!』 急かすロッテに動かされる形で、私はエルナを目覚めさせた。そして…… 服を整えてから皆で挨拶をする。彼女は、不思議そうに自分の躯を眺めて 手を握ったりしていた。だが、裸となっている為か……妙に艶めかしい。 更に“姉”とお揃いの“琥珀色の瞳”も、菫色の髪に映えて輝いていた。 「お、おはよ……お姉ちゃん達。アタシのこれ……どうしちゃったの?」 「有無。やはり非常にガタが来ていたのでな、彼方此方を改修したのだ」 「エルナちゃん、あのままの武装だと法に問われそうでしたからね……」 「……その武装、然るべき機関で処分してもらったのかな?マイスター」 「ああ、Dr.CTaにお願いしておいた。彼女ならば、確実だと思ってな?」 「そう?……アタシの過去が消えた訳じゃないけど、スッキリしたわね」 そう言い、エルナは微笑んだ。彼女もあの濃密な一日を経て、己の過去に 一区切り付ける事が出来たのだろうな。これならば前田達が見咎める事も 最早あるまい。後は私達の“妹”として、嗜みを教え込んでいくだけだ。 「有無。その躯は戦う為だけではなく、少女として身を飾る為にもある」 「身を飾る、って……ロッテお姉ちゃんやマイスターみたいに、服を?」 「そうですの!わたし達、マイスターの作ったお洋服が大好きですの♪」 「無理矢理好きになれ、とは言わぬ。服を着る習慣もなかったろうしな」 「でも、あたしも慣れてきた時……“心”が踊ったんですよ、とても?」 「大丈夫。エルナちゃんにもきっと似合うんだよ。丁度、一着あるしね」 クララは気を利かせて、自分の衣装箱……の隣に置いてあったケースから 服を一式運んできた。そう……春新作の“Electro Lolita”、その最後の 一着──“菫色”のドレスだ!まさか、着る者の居なかった“四着目”が この様な形で充足されるとは思いも寄らなかったが……運命は、面白い。 「え、ええと……アタシに、そんなの……その、似合うのかしら……?」 「それは私が、そしてお前の“姉”達が保証する。さ、着付けてやるぞ」 「ええっ!?そ、そんなの大丈夫よ!その、えと、あの……はぅぅ!?」 私に着せられる事に、最初は物凄く戸惑ったエルナ。だが、服飾の構造を 理解出来ない彼女は、渋々私に身を任せる事となった。その仕草は……! 「ぅ、うぅっ……な、なんだかムズムズするわ。でも、嫌じゃない……」 「それも“心”の成せる業ですの。照れくさいって“感情”ですの~♪」 「て、照れるとか恥ずかしいってこういう事をいうのね?……ひゃうっ」 「こら、可愛らしい声を出すなっ!その……私も顔が紅くなりそうだぞ」 「そ、そう言われたって……マイスターに触れられると、出ちゃうのよ」 とても“初”で可愛らしい。初めてドレスに袖を通す“少女”そのままの リアクションは、私……いや、私達の胸をとても暖かくしてくれる物だ。 程なく着付けが完了した所で、アルマが神姫サイズの姿見を持ってきた。 当然ながら、彼女らも各々に与えられた“春の新作”を纏っているのだ。 「マイスター、これでエルナちゃんに姿を見せてあげて下さい……っと」 「どうだ?これがお前だ、エルナ。神姫として、凛と振る舞う娘の姿だ」 「とても似合ってて、可憐ですね……お揃いですよ、エルナちゃんっ!」 「……嫉妬しちゃう位に、可愛いんだよ。ボクらまで堪らなくなるもん」 「うん。切れ長の目に、淡い紫と白のコントラストが映えますの~っ♪」 「はうぅ……そ、そんな褒められる事なんかしてないわよ……アタシ?」 只服を着ただけなのに、皆が暖かく……微笑ましく見守ってくれる。その 感覚は、決して全身を武装化しただけでは味わえなかった物なのだろう! 可愛らしくもじもじと手を絡ませるエルナと、それを抱きしめる三姉妹。 私は四人の頭を、順番に撫でてやった。皆は糸の様に目を細めて、感触を 味わっている。エルナも、まんざらではないという表情だ。くぅぅッ!? 「コホン……そう言えばエルナよ、眠っている間にお前の登録をしたぞ」 「登録?神姫同士のバトル、って奴かしら……過去はムダじゃないのね」 「有無、そうだ。装備はこれから作ってやる事となるが、それは後日だ」 「武装が仕上がったら、戦闘訓練とかに打ち込むんだよ。エルナちゃん」 「ふふっ。負けないわよ、クララお姉ちゃん?本当楽しみね……色々と」 塗装作業の前に、私はエルナを事務局に見せている。そして、お墨付きを 頂戴したのだ。完全オリジナルの素体という事で多少の制約はあったが、 登録を受理された彼女は、正真正銘“神姫”として生まれ変わったのだ! それを自己認識したエルナは、早速“姉”との訓練に思いを馳せている。 だが、今日はもっと大切な事をせねばならん。前に踏み出さねばならん! 「まぁ待て、今日は……その、何だ。デートと洒落込もうではないか!」 「で、デート!?アタシなんかと?……なんか、なんて言っちゃダメね」 「そうとも。お前も大切な“妹”なのだぞ!それを、今日は明確にする」 「“も”……って、事はマイスター!ひょっとしてあの事、ですか!?」 「そうだ。長く待たせてしまったが、約束は……しっかり果たしてやる」 「……やっと、本心と言うか具体的な言葉が聞けるんだね?マイスター」 「なら今日は精一杯五人で楽しんで……それから、告白を受けますの♪」 『はいっ!!!』 ──────胸が張り裂けそうだよ。皆への、想いで。 第三節:逢瀬 全てが終わった暁には、私の“想い”を具体的な言葉として告白しよう。 それは、アルマとクララに誓った事だ。しかし、新しく私達の輪に加わる エルナにも……更に、長く側にいてくれたロッテにも、言わねばならぬ。 “マスター”として……“マイスター”として、私が抱いている想いを。 デートと言うのはつまり、言い出せる雰囲気を作る為の通過儀礼なのだ。 「ほれ、エルナ。バランスをしっかり取らぬと墜ちるぞ?どうだ、外は」 「あ、あのマイスター?皆見てるわよ、アタシ達の事……変じゃない?」 「自意識過剰かもしれないけど、決して変じゃないよ。皆、綺麗だもん」 「そうですね……マイスターの『白と橙の服』も、お揃いで綺麗ですし」 「わたし達の服に合わせる形で、マイスターは何時も服を作りますの♪」 「そうなの?その、マイスターも……可愛いと思うけど、あのその……」 私の左肩で、エルナが周囲の“好奇の視線”に身をよじっていた。ここは 渋谷のセンター街である。作業に結構な時間を取られていたので、あまり 遠くへ出張る事は出来なかった。しかし、私達の日常と世間に慣れるなら こうして街を見せてやるだけでも十分効果があると睨んだのだな、有無。 「で、でもさクララお姉ちゃん……それなら、これから毎日こうなの?」 「毎日という程でもないけど、可憐に振る舞える位の場数は踏む筈だよ」 「……そ、そう。ところで、さっきから周り見てて気になったんだけど」 「何です、エルナちゃん?……あのお兄さん、何か変な事してました?」 「うん。あの人、耳に通信機なんか付けて誰の指令を受けてるのかしら」 「え~と……あれは音楽を聴く物ですの。無線機とかじゃないですの♪」 だが、何処か常識に疎い所があるのはしょうがないか……?まぁ、それも 焦る事はない。これから四人で、街での暮らしという物を教えればいい。 自己を恥じて律していくその姿は、とても愛らしいではないか。真っ赤な エルナを、私はそっと撫でてやった。それだけで、緊張は随分と解れる。 「うぐ、だ……ダメねアタシ。音楽とかは、北欧のしか聞いた事無いの」 「北欧の?ひょっとしたら民族舞踊とか、地元のバンドとかですの~?」 「う、うん。“マヨール”と“ベルンハルト”が、その辺好きだったの」 「ふむ、そうか。では今度エルナにもお薦めを教えてもらうとしようか」 「後……あたしの演奏と歌に合わせて踊るのも、いいかもしれません♪」 「ふぇ!?だ、ダメよ!アタシは見聞きしてるだけで、上手じゃ……!」 「大丈夫だよ。技巧も大切だけど、ああ言うのは“心”が第一だもんっ」 そうして、他愛ない会話を膨らませていく。互いを深く知っていくには、 兎に角なんでも話すのが一番なのだ。御陰で、エルナの過去や嗜好なども 意外な側面が見えてくるのだ。例えば、そう……このショーケースだな。 「わぁ……マイスター、アレ見て!アレ……ほら、水晶のイヤリングよ」 「む、クリスタル自体は有名な工房の品か。ああ言うのが好きなのか?」 「ええ、金や銀も綺麗だけど……この中だったら、アレとこの紫色のね」 「それはアメシストだよ、エルナちゃん。あ……二つ名にもどうかな?」 「ふむ。んー……“紫風の尖姫(アメティスト・ヴァルキュリア)”とか」 「いいですね。アタシ達がバトルで名乗るのも、宝石の名前ですしッ!」 「エルナちゃんがお気に入りなら、今度その二つ名を使ってみますの♪」 ウィンドウショッピングに華が咲くのは、神姫と言えども買い物が出来る 身の上ならば女性は皆同じなのだ。それは、私が散々己の店で見た光景。 だからこそ……エルナもそういうゆとりが産まれた今は、瞳を輝かせる。 そこから話は、バトルで名乗る二つ名へと発展する。本当に、他愛ない。 だが、これこそが幸せなのだ。この何気ない日常こそ、喪いたくない物。 「ふぅむ……そろそろ夕餉の時間か。皆、適当な店に入ろうではないか」 「え?お、お店って……でもアタシ達人間の食事なんて摂れないわよ!」 「ふふっ。あのドクターなら、その辺りは心配要らないですの♪ね、皆」 「きっと“仕込んでる”筈ですよ……皆、あの人に修理された時にね?」 「うん。匂いを嗅げば、エルナちゃんも自分の変異に気付く筈なんだよ」 ビルの谷に沈む陽を見てディナーを提案する私に、当然エルナは戸惑う。 だが“姉”達が睨んだ通り、あの喰えない人は私に意地悪く笑っていた。 故に『十中八九』と見て良いだろう。私は皆で、狼狽するエルナを連れて イタリアンレストランへと入った。まずは見知った洋食の方がよかろう? 「まずは、マルゲリータのピッツァを頼もう。後は皆、好きな様に頼め」 「分かったんだよ。でもマイスター、エルナちゃんは“どっち”かな?」 「……正直そこまでは聞いていないのでな。とりあえず量を確保するか」 「フルーツも少々と……あ、ライスコロッケなんかよさそうですの~♪」 「え、あの?なんで皆、人間の食事注文してるの?普通無理でしょ!?」 「確かに普通は、無理ですね……でも、あたし達はきっと大丈夫ですよ」 さりげなくピザを頼んだのは、過去との訣別を意味する。しかし、それは 最早どうでもいい事だ。それよりも、何が起きているのかを理解出来ない エルナを落ちつかせながら、料理を待つ事こそ肝要。あまりにも自然且つ 遠慮無く頼む“姉”に、彼女は驚くばかりである。だから私は、こっそり カルボナーラも追加してやった。さぁ、この娘はどんな顔をするだろう? 「お待たせしましたー。でもお一人でこんなに大丈夫です、お客さん?」 「一人ではない、見ての通り五人だ。気にせずに料理を持ってきてくれ」 「……う、わぁ。何これ。これが、人間の食べ物なの……?いい、香り」 「ふふふっ。匂いが分かるなら、ちょっぴり口に運んでみてください♪」 十数分位で運ばれてきた豪勢な食事を前に、エルナは初めての“香り”を 体験した。それは、今まで情報として知覚した臭気ではなく……文字通り 『食欲をそそる』指向性を持った感覚として、彼女の超AIに染み渡る。 伺いを立てる様に見上げてきたエルナに対して、私は笑顔で肯いてやる。 「い、いただき……ます。はむ、ん……え!?何これ、む……んくっ!」 「お洋服を汚さない様、気を付けてくださいですの~♪はむ、はむ……」 「エルナちゃんはいっぱい食べるんだよ……アルマお姉ちゃんみたいに」 「あ、酷いですよクララちゃんっ!あたし、そんな大食いじゃないです」 「にしても……やっぱりDr.CTaが仕込んでたね、“食事機能”。あむっ」 「『今晩はお楽しみだねぇ』等と、言っておったからな……あちちっ!」 「ああもうマイスター、チーズで火傷しない様に気を付けて下さいね?」 アルマの窘めに、私もつい照れくさくなる。そう、こういった“交流”を 補助する為の特殊機構こそ、Dr.CTaが研究を続けている“食事機能”だ。 エネルギー補給経路の確保という以上に、この力は私達の“心”を繋ぐ。 無心に食事を頂くエルナを見ていると、つくづく彼女の悪戯心には感謝を せねばならんな、と感じる……にしてもな。その、なんだ。彼女は……。 「……か、可愛い。ほれ、クリームが垂れているぞエルナや……よしっ」 「あ、ありがと。はぅ……な、何か凄く照れくさいわ……でも、嬉しい」 「マイスター、タバスコ取ってほしいもん。ボクだって、甘えるんだよ」 「あ、クララちゃんずるいですよ!後でこれ、一緒に飲みましょうよっ」 「ふふ~……わたしは、食べ終わってから一杯拭いてもらいますの~♪」 「ああもう皆、急かすでない!今日という時間はまだまだあるのだぞ?」 ──────そう、楽しい時間は……ずっと続いていくんだよ? 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モンスターバスターズ・後編 ※注意!18禁です! 「ところでお兄ちゃん」 「ん?なんだユキ?」 観奈ちゃんを送り届けて戻ってきてユキが言った 「なんであのビリビリ、私にはなんともなかったの?」 「ああ、それか。その服のおかげだよ」 ユキに渡したヒラヒラ付き棒は、警察等で使う対神姫用捕縛装置なのであった そして巫女服は、それを遮断する為の防護服だったりする 「でもなんで巫女さんなの?」 「三都衣の趣味」 「…納得」 「まぁ事件も解決したし、寝るとする…う…」 「…!どうしたのお兄ちゃん!」 「ぐあ…なんか…オバケに…」 「え?でもオバケってミチルちゃんだったじゃない!」 「ユキ…お払いを…頼む…」 「え?でもどうやって?」 ユキの言葉を聞き、ゴロンと仰向けにある俺 「俺の上に乗って…」 「うん!」 「右手で棒を持って」 「こう?」 「…左ででスカートを上げて」 「こうかな…ん?」 いわれるままにスカートまであげてしまったユキ 「悪霊退散って」 「もしもしお兄ちゃん?」 ぷにぷに 「…なんでスカートの中をつつく…あん…」 「…ユキ…俺のモノに悪霊が取り憑いたんだ…お払いを頼む…」 ユキの下着越しに秘部を攻めながらお払いをお願いする 「あん…お兄ちゃん…おどかさないで…あんっ!…」 「早くしないと…大変な事に…」 そういってもう一方の手でユキの胸元を開く 可愛い胸が丸見えになる 「あっ…ダメッ…」 胸に愛撫を加える 「はぁ…ユキ…早く…」 「そんな事いっても…んっ…」 下着越しに攻めていた指を動かし、下着も剥ぐ。そして秘部に直に触れる 「ほら、はやくしないとユキも…」 「はうう…分かったよ…」 刺激されながらもなんとか俺の股間へと移動するユキ ガチャ…ジー… 俺の怒張したモノを取り出すユキ その間も秘部や胸、さらには腰やお尻にまで愛撫の範囲を広げていく俺…に憑いた悪霊 「はうう…悪霊…退散…あうっ…」 愛撫され感じながらも俺のモノ撫で始めるユキ 「うおっ…きもちいい…」 さらにモノに抱きつき、体を上下に揺すり始めた 「はう…悪霊退散…悪霊…んあ…退散…」 ユキの胸と腕が、カリに引っ掛かりとても気持ちいい… 「うん…うむっ…れろ…れろ…」 さらに先端をついばんだり、舐めたり… 巫女服はすっかりはだけ、うっとりとした目でモノにすがりつき奉仕するユキは、とても淫靡だ… その視覚と触覚の刺激に俺の興奮もあがってゆく くっ…このままでは… ユキの秘部とお尻への愛撫を強め、反撃をする 「ん…ああん…あうっ…」 身をよじらせ、快楽に悶えるユキ その動きでこっちもさらに気持ちよくなる …しまった、これじゃ逆効果だ… 「ん…れろ…どう?悪霊さん…もう…ダメ…?」 「くっ…もう…ダメだ…」 「んふ…それじゃあ…悪霊…退散!」 最後にぐっと身をよじり、俺のモノへトドメの刺激を与えるユキ 「ん!くうぅ!でるっ!でるうっ!」 最後の抵抗に、ユキへの刺激を強くした 「あうっ!ああ~~~~~~!」 どぴゅっ!どぴゅっ!どぴゅっ!… ピンと背筋を伸ばし達したユキに、精液が降り注ぐ… ぴゅっ…ぴゅっ…ぴゅっ……ぴゅっ………ぴゅっ………… 「はぁ…はぁ…はぁ…」 「ん…はう…ああ…はうう…あ…」 「どうしたユキ?」 「…まだ、悪霊が残ってる…れろ…」 「うおう!」 「んふふ…悪霊…退散…」 しゅっしゅっしゅっ… 「おううっ!」 ユキの『お払い』はまだまだ終わりそうにない… 俺に憑いた悪霊は払われたのは、その後4回程出すまでかかった… 「御免なさいなのじゃ…」 「御免なさいなのだ…」 翌日、観奈ちゃんとミチルは、警備の人と部長に謝って回った 「…しかし香田瀬、よく犯人がミチルちゃんだって分かったな」 「まぁ、ウチのセキュリティに反応しなかったのと、一瞬だけ白い影が見えたのがね」 「…なるほどね、翼が見えたのか」 「本気で動かれてたら、見えなかっただろうけど。相手が人間だったのと、電力消費を押さえていたからギリギリ見えたんだろうな」 「だな、ミラコロまで起動されてたら、全く見えなかっただろうな」 こう考えると恐ろしいヤツだな、ミチルって… 「それはそうと健四郎」 ミチルが話しかけてきた 「ん?なんだ?」 「昨日の『お払い』、ちゃんと出来たのか?」 「ぶっ!」 見てたのか?見てたのかミチルさん… 「なんなら…今度あたしも…観奈にはナイショで…『お払い』してやってもいいのだ…」 頬を染め、モジモジしながら言うミチル… う、コイツこんなに可愛かったっけ…? 「でも…俺にはユキが…」 「あ…あはは…冗談なのだー!本気にするな!」 いつもの調子に戻って言うちるちる 「ちるちるいうなー!」 やっぱコイツの考えてる事はわからん… 「…事件も…解決して…めでたしめでたしです…ぱちぱち…」 「で、健四郎様、お払いってなんでございますの?」 「わー!花乃ちゃんまで!」 会社中に、俺の絶叫が木霊した… あとがき やっぱ観奈ちゃんのエロはヤバイよね(←犯罪です) え?ミチルはどうなのかって? 彼女はユキ達よりもずっと年上ですよ
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今のところこのゲームの始め方しかまともなページがないけど許してくれェーッ! このwikiはAC「武装神姫アーマードプリンセス バトルコンダクター」の非公式wikiです。 【公式】:https //p.eagate.573.jp/game/busoushinki/bc/ ※当wikiは非公式の攻略wikiです。情報の妥当性や正確性について保証するものではなく、一切の責任を負いかねます。 ※当wikiを利用することによって生じるいかなる損害も当サイトでは補償致しません。 ※ご利用につきましては自己責任となりますのでご注意ください。 ※また、当wikiおよびwiki管理人は運営様とは一切関係がありません。wiki管理人にゲーム内のエラーなどについて問い合わせないようお願いします。 ゲームに関する問い合わせに関してはこちらから ※文章の著作権は当wikiにあります。内容の複写、転載を禁じます。 ※当wikiで使用している画像、情報等の権利は、コナミホールディングス株式会社に帰属します。 ※ぶっちゃけwiki作成慣れてなさすぎるので協力者募集してます。誰ぞ頼む…
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ウサギのナミダ・番外編 少女と神姫と初恋と その2 ◆ 美緒は不安で沈んだ気持ちのまま、待ち合わせのM駅に降りたった。 彼と最寄り駅で待ち合わせ。 彼の家に初めてのお呼ばれ。……理由が何であっても。 心の準備が整う間もなく、放課後はやってきて、あわただしく下校して、家で大急ぎで私服に着替え、最速で身支度を整えて、パティと神姫の装備とメンテナンス用具が入っているカバンをひっつかみ、そのまま自宅を飛び出した。 肩まで掛かる髪を撫でつけながら、思う。 もっと気の利いたおしゃれができるように、なっていればよかった。 梨々香の言うことをもっと聞いていれば、こんなときに困ることもなかっただろうか。 美緒は正直に言って、おしゃれが苦手だった。 きれいな容姿や可愛い格好には、人並みに興味はある。 だが、ファッション誌に載っているような服やアクセサリーが自分に似合うとは、どうしても思えない。 その原因は、自分の身体にあると、美緒は思っている。 やはり、少し太っているから、あんなモデルのように細身の人が似合うような服は、わたしは着られないのだ。 そう思いこんでいる。 梨々香は「そんなことないよ!」と力説するが、それは親友に対する気遣い、あるいはお世辞というものだろう。 そんな思いこみの結果、美緒は何とも無難で地味な服しか持っていないのだった。 こんなおしゃれの欠片もない、地味な女の子を、安藤はどう思うだろうか。 それが不安で仕方がない美緒だった。 改札を出て、左手の出口に向かう。 「おーい、八重樫!」 安藤はもうそこにいた。手を振っている。もう逃げられない。 美緒はもう、不安でどうにも爆発しそうだった。 ◆ 「それじゃ、行くか。今日は頼むな」 「うん……」 安藤は笑っている。 美緒の私服姿を気にもとめていないように、いつもどおりに。 美緒はほっとするのと同時、なんだか不満だった。 安藤ももちろん私服姿である。シャツにジーパン、スニーカーというシンプルな格好だが、異様にかっこいい。 彼の背を見ながらついていくだけでドキドキが止まらない。 なのに、彼は、美緒の姿を見てもいたって普通だ。 もちろん、自分に魅力がないのは分かっているけれど……。 不公平だ、と美緒は思う。 わたしばっかりドキドキしたり不安になったりで、彼はちっとも普段の様子を崩そうともしない。 その原因が、自分のあか抜けなさにあることは百も承知なのだけれど。 ……もし、自分がもっときれいでおしゃれな女の子だったら、彼と一緒に歩いても、釣り合いが取れるだろうか。彼も少しくらいドキドキするのだろうか。 美緒は歩きながら、そんなことを悶々と考えていた。 駅から一〇分ほど歩いた住宅街の中に、安藤の家はあった。 安藤の招きに応じ、門構えをくぐって玄関に入る。 「ただいまー」 「お……おじゃまします……」 美緒が挨拶を言い終えるより早く、 「お、おかえり」 ハスキーな女性の声が聞こえた。 玄関から奥へと続く廊下に、長身の派手な女性が立っていた。 髪はカールをかけたロングヘア、軽く化粧をしているだけのようなのに、目鼻立ちがとても派手である。 細身の長身はプロポーション抜群。肩をむき出しにしたスパンコールをちりばめたトップスが、異様に似合っている上に、目のやり場に困るほどセクシーだった。 「姉貴……いたのかよ」 「いちゃ悪いのかい、弟」 (お姉さん!?) 不機嫌そうな姉弟のやりとりの脇で、美緒は驚愕した。 安藤に姉がいるのは知らなかったし、たとえ知っていたとしても、予想とは全然違っているように思う。 あのさわやか系で通っている安藤の姉が、ギャル系ファッション誌のトップモデルみたいな女性だと誰が思うだろうか。 安藤姉は二人をじろりと睨む。 「姉のいぬ間に女を連れ込もうってか……まったく、浅はかだねぇ」 「姉貴っ! オレの客の前で失礼なこと言うな! 八重樫には、オレから頼んできてもらったんだ」 「はぁん? オマエに女を連れ込む度胸があるとは思っちゃいないが、どういう用件だい」 怒り出した安藤に対し、姉の方はニヤニヤと笑いながら余裕の表情である。 美緒は誤解を解こうと口を挟んだ。 「あ、あの……安藤くんに、神姫のことで教えてほしいことがあるって、相談されて、それで……」 「神姫ィ?」 呆れたような声で言った安藤姉は、前屈みになって、美緒の前に顔を突き出した。 近すぎる派手な美人顔に、思わず後ずさる。 ふーむ、と五秒ほど顔を値踏みするように眺められた。 そして、 「弟、お茶用意しな。彼女はアタシがアンタの部屋に案内しとく」 「なんでオレが……」 「文句言うな! いいからさっさとやる!」 安藤は頭を掻きながら、不満顔のまま玄関を上がった。 「八重樫、とりあえず上がって……姉貴についてってくれ」 美緒にそう言うと、廊下の奥のキッチンに足を向けた。 どうも姉の命令には逆らえないらしい。 美緒はもう一度、おじゃまします、と言って靴を脱いだ。 安藤宅に上がり、改めて安藤姉を見る。 不敵に笑う彼女の存在感に圧倒される。 初対面のはずなのだが、なぜか美緒には、その不敵な笑顔に見覚えがあった。 弟の背がキッチンに消えると、不意に安藤姉の雰囲気が柔らかくなった。 「そんじゃ、ついてきて」 「あ、はい」 姉の先導で、右手にあった階段を上る。 意外なことに、安藤姉の方から美緒に話しかけてきた。 「ヤエガシちゃんも神姫やるんだ?」 「はい……あんまり強くないですけど」 「ああ、バトロンもやってんのね。アタシも少しはやるけど」 「え? お姉さんも……神姫のオーナーなんですか?」 「そうだよ。……ヴィオ、挨拶して」 そう言うと、長い縮れ髪の間から、薄紫のパールカラーのバッフェバニー・タイプが顔を出した。 メイクされた顔立ちは妖艶で、その雰囲気もどこかオーナーに似ている。 「ヴィオレットです。よろしく、ヤエガシさん」 「よろしく……って」 その神姫の名を聞いて、ひらめくものがある。 そう、バッフェバニーのヴィオレットと言えば…… 「もしかして……お姉さんは、Tomomiですか!?」 「あれ、知ってるんだ。そりゃ光栄」 驚愕している美緒に、安藤姉はこともなげに肯定した。 知っているどころではない。 女性の神姫オーナーで、Tomomiの名を知らぬ者はないだろう。 それどころか、美緒と同じ年頃の女の子なら、大半は知っているはずだ。 Tomomiは女性たちの憧れ、カリスマモデルである。 女性向けのファッション誌での活躍はもちろんであるが、彼女には他のモデルにない特徴があった。 神姫を連れていることである。 彼女の神姫・ヴィオレットもまたモデルである。 時にヴィオレットは、Tomomiを飾るワンポイントであり、時にTomomiとお揃いの服を着こなす。 その様子が、新しもの好きの少女たちに受けた。 Tomomiの影響で、おしゃれのパートナーとして神姫のオーナーになった女の子は、決して少なくないだろう。 そんなTomomiとヴィオレットを、神姫業界の方でも放って置くはずがない。 いまや神姫専門誌やら神姫の情報サイトやらでもひっぱりだこだ。 Tomomiとヴィオレットは、非武装派の神姫オーナーたちのカリスマにもなっている。 そんなTomomiが安藤のお姉さんだったなんて……美緒にしてみれば、思いも寄らぬ展開に驚愕するばかりだった。 ふと、美緒は疑問に思う。 お姉さんが神姫オーナーならば、神姫のことを少なくともそれなりに知っているはずではないか? 「あの……Tomomiさんは、神姫に詳しいですよね?」 「うん? まあ初心者に毛が生えた程度のもんだけど」 「だったら、安藤くんは、神姫のことをお姉さんに聞けばいいのでは……?」 「ヤツはアタシのこと毛嫌いしてっからさぁ。 ……あ、ここね」 Tomomiは無造作に、その部屋の扉を開けた。 美緒の目に映るのは、きれいに片づいた、あまり飾り気のない部屋だった。 あまり広くない部屋に、ベッド、机、キャビネット、本棚が機能的に配置されている。 ポスターなどの装飾は見られない。 そんな中、机の上に置かれた武装神姫のパッケージが異彩を放って見えた。 「それに、アタシは絶対教えないね。男だったら自分で神姫の立ち上げくらいやれっての」 美緒を部屋に入れると、安藤の姉はそう言ってからからと笑う。 そしてまた美緒に向き直り、 「まあ、智哉はそんな感じで、気が小さくて、全然頼りないヤツなんだけどさ。よろしく頼むよ」 そう言って派手なウィンクを美緒に寄越した。 美緒は目を白黒させながら、それでも考えている。 頼りないって……安藤くんが? 美緒にはとてもそうは思えなかったが、とりあえず、こくりと頷くしかなかった。 「それと、もし智哉に襲われそうになったら、大声で助けを呼びな。アタシがヤツをぶっちめてやっから」 そう言って不敵な笑みを浮かべた。 その表情が、彼女の派手な顔立ちに異様なまでに似合っていた。 美緒が驚くばかりで固まっていると、 「こら姉貴! 八重樫に何吹き込んでるんだ!」 安藤がお盆を抱えたまま、横合いから姉をどついた。 「神姫オーナー同士、友好を深めてたんだよ。オーナーじゃないオマエには関係ないだろ」 「つか、関係ないのは姉貴だろ! とっとと出てけ! それに、もうすぐオレもオーナーになるんだからな」 「へいへい」 安藤姉は、艶やかな笑顔で美緒に手を振ると、部屋から立ち去った。 安藤は深い深いため息をつきながら、部屋の扉を閉める。 「……姉貴が帰ってきてるとは不覚だった……」 がっくりとうなだれつつ、部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルに、お盆を置く。 お盆の上には、コーヒーカップが二つ載っていた。 どうぞ、と差し出されたカップを素直に受け取る。 湯気の向こうの安藤は、まだうなだれていた。 そんなに姉が在宅だったことがショックなのだろうか。 「で、でも、お姉さんが、あのTomomiだなんて、全然知らなかった」 「学校じゃむしろ秘密にしてるぐらいなんだよ……あんなのが姉貴って、ありえないだろ」 「そ、そうかな……」 美緒も年頃の女の子なわけで、あのカリスマモデルが姉だなんてメリット以外には思いつかない。 安藤もようやく落ち着いたのか、深いため息を一つ吐くと、顔を上げて微笑んだ。 「まあ、あんなヤツのことはどうでもいいから……神姫のセットアップ、はじめようか」 美緒はその微笑にドキリ、と胸を高鳴らし、小さく頷いた。 ◆ 「……それで、ここに小さなチップを三つ、セットすればいいんだな?」 「そうそう。三つのチップの組み合わせで、その神姫の得意なこととか性格が決まるから、チップ選びは慎重にね」 アルトレーネのパッケージを開けた頃から、美緒の緊張も薄らいできていた。 安藤は素直で真面目な生徒だった。美緒の指示をよく聞き、滞りなく作業を進めていく。 「でも、気に入らなかったら、チップの配置をやり直せばいいんじゃないか?」 「うん……そうではあるんだけど」 美緒は眉根を寄せて表情を曇らせる。 「わたしはあんまり好きじゃない……チップの配置を変えると、その前に設定された『心』も消えてしまうの。人間の都合で、何度も何度も神姫の心を消してしまうのは、かわいそう」 「そっか……俺たちだって、誰かの都合で無理矢理性格変えられたりしたら、イヤだもんな」 「うん。だから、はじめに配置したCSCの設定を大事にしたいの」 「そうだな。オレもそうするよ」 安藤は三つのチップを慎重に選び出す。 「八重樫はやさしいな」 「えっ……!?」 視線を合わせずに呟く言葉は、まさに不意打ちだった。 やっと緊張がほどけてきたのに、また心臓が爆発しそうになる。 「そんなこと、ないよ……」 美緒が呟くいつもの言葉は少し震えている。 そう、神姫の心を大切にしたいなんて思うことは、普通、普通だ。 美緒はそう自分に言い聞かせながら、ドキドキが収まらない胸を手で押さえた。 (やだもう、どうしてそんなに、ずるいことばっかり言うのーーーーっつ!?) そのさわやかな顔立ちさえ、美緒には憎らしく思えてくる。 しかし、チップをCSCに慎重にはめ込むときに見せる、真剣な表情に、どうしても見とれてしまうのだった。 「よし、できた」 そんな複雑な乙女心を知るはずもなく、安藤は美緒の方に笑顔を向けた。 美緒は彼の顔をまともに見られず、やっぱりうつむいてしまう。 「そ、そしたら……クレイドルの上に載せて、PCに出てくるメッセージに従って進めればいいから」 「わかった」 安藤が神姫の胸部パーツを閉じ、ボディをクレイドルの上に載せる。 すると、PCが神姫との接続を認識、神姫管理用ソフトを自動的に立ち上げ、初期設定のセットアップに移行する。 いくつかのメッセージに対し、『はい』の解答を行う。 そして、 「武装神姫・アルトレーネ 初期登録モードで起動します」 神姫の口から出た言葉に、安藤は少し動揺した。 その安藤の目の前で、神姫はぱちりと目を見開く。 大きな瞳に、安藤の顔が映っている。 「ユーザーの登録と認証を行います。ユーザーの名前を音声で入力してください」 安藤が振り向き、美緒に目配せしてきた。 美緒は大丈夫、と小さく頷いた。 「あ……安藤智哉」 安藤は少し緊張している。 誰でも初めての神姫の起動の時は緊張するものだ。 大きな期待とひとつまみの不安。 美緒も、パティを起動したときの緊張を思い出す。 「あんどうともや、様で登録しました。安藤様を何とお呼びすればよろしいですか? 音声で入力してください」 「……マスター」 このあたりの入力は、どの神姫でもそうかわらない。 入力項目について、あらかじめ決めておくように、美緒から言い含められていた。 「最後に、神姫の名前を音声で入力してください」 「オルフェ」 抑揚のない神姫の問いに、安藤は即答する。 神姫は黙り込み、空中を見つめているように見えた。 それも一瞬のこと。 「登録完了しました。 オルフェ、通常モードで再起動します」 事務的な口調のメッセージが流れた後、神姫は一度目を閉じ、全身から力を抜いた。 一瞬の後、再び顔を上げ、ぱちりと瞳を見開く。 そこに宿るのは、感情の色。先ほどの事務的で無機質な視線とは明らかに違って見える。 神姫は、安藤を見上げた。 視線が交わる。 安藤は少し驚いて、肩を震わせた。 そんな安藤に、彼の神姫はにっこりと笑いかける。 「はじめまして、マスター。今日からあなたの神姫になりました、オルフェです。これからよろしくお願いします!」 元気のいい、さわやかな声が響いた。 にっこりと笑うオルフェ。 「ああ、よろしく……よろしくな、オルフェ」 「はい!」 少し戸惑いつつも挨拶した安藤に、オルフェは明るく応えた。 美緒はほっとする。オルフェは明るく元気な性格のようだ。きっと安藤とうまくやれるだろう。 CSCの再設定を否定しておきながら、神姫の性格が良くなかったらどうしよう、と密かに心配していたのだった。 「……パティ」 「はい」 持ってきていたバッグから、美緒の神姫が顔を出した。 美緒はパティを手に取り、机の上に立たせる。 安藤は彼女をじっと見つめた。 「へえ、この子が八重樫の神姫かあ」 「あの、マスター。この方は……?」 オルフェにしてみれば、見るもの出会うものすべてが初めてだ。 彼女は美緒とパティを見比べながら、安藤に問う。 安藤はほほえみながらオルフェに説明した。 「彼女は八重樫美緒さん。オレのクラスメイトで……神姫のことをいろいろ教えてもらっている、先生だ」 「……よろしくね、オルフェ」 安藤にフルネームを(特に下の名前を!)呼ばれるのは、なんだかとても気恥ずかしい気がした。 美緒の挨拶に、オルフェは満面の笑みで応えた。 「それから、この子はわたしの神姫で、パトリシア」 「よろしくお願いします、オルフェさん」 礼儀正しくお辞儀をしたパトリシアに、オルフェも頭を下げた。 「こちらこそ。わたしは起動したばかりなので、いろいろ教えてくれると嬉しいです。パトリシアさん」 「もちろんです。……それから、わたしのことはパティと呼んでください」 「はい、パティさん」 二人の神姫はすぐに打ち解けたようだった。 オルフェの相手をパティに任せ、美緒は安藤に講義を続けた。 神姫の扱い方や、メンテナンスソフトの使い方、装備の使用方法や役に立つ情報サイトまで。 教えているうちに二人とも夢中になってしまい、気がつくととっぷりと日が暮れてしまっていた。 ◆ 「今日はありがとな。助かった」 「ううん。気にしないで」 駅での別れ際。美緒は微笑むことができた。ようやく安藤と二人で話すことにも慣れ、楽しいとさえ感じられるようになっていた。 安藤は、頭を掻きながら、ちょっと照れたような表情で言った。 「なあ……八重樫の……その……ケータイの番号とメアド、交換してくれないか」 「……え?」 「またいろいろ相談に乗ってほしいんだ。……神姫に詳しい姉貴があんなだろ? 周りに詳しいヤツもいなくてさ……だめかな?」 それは願ってもない話である。 安藤智哉の携帯番号とメールアドレスなんて、クラスメイト女子が一番ほしがっている個人情報だ。 それを彼の方から交換して欲しいと言ってきている。 美緒はすでに夢心地ですらあった。 夢遊病者のような手つきで、安藤に携帯端末を差し出す。 意識はふわふわと宙を漂っており、ことの成り行きを全く理解していなかった。 数分後、二つの携帯端末を操作し終えた安藤は、片方を美緒に差し出した。 美緒はまた夢遊病者の手つきで端末を受け取る。 安藤ははにかむように笑った。 美緒もつられて笑ったが、なんだか不自然に不気味な笑いになっていたような気がする。 安藤はそれを気にもしない。 「今度は、八重樫たちが行ってるゲーセンに連れてってくれないか?」 「え、ゲーセン?」 「そう。バトルロンド……オレもやってみようと思うんだ」 屈託なく言う安藤を美緒は見つめてしまう。 もちろん、美緒に断れるはずもないし、断る理由もない。 「うん。わたしでよければ、案内するわ」 「やった」 にっこりと笑うと、彼は身を翻した。 「それじゃあ、八重樫。また明日な!」 「うん、また明日」 彼の背に向かって、美緒は小さく手を振った。 美緒の胸はいまだドキドキが止まらない。 ◆ 夢のような怒濤の一日が過ぎてゆく。 美緒は自室のベッドに寝ころび、天井を見つめながら、今日あったことを振り返る。 安藤智哉は憧れだった。 あんな人が彼氏だったら、きっと素敵だろう、そう思って、遠くから見ていただけだった。 彼の素敵なところを見つけては思いを募らせても、決して手の届かない人だと思っていた。 それが今日一日で一変した。 いま美緒が手にしている携帯端末のアドレス帳、その一番最初に「安藤智哉」の名前が表示されている。 美緒はため息をつく。 これはなんという夢なのだろうか。 このまま安藤と仲良くなれば、親しい友達になれるだろうか。 ひょっとして恋人になんて、なれる可能性もあるだろうか。 軽く頭をふり、そんな妄想を打ち消す。 でも、せめて、今のわたしと陸戦トリオの遠野さんくらいには近い関係になることを望んでも、罰は当たらないと思う。 そんなことを考えていると、 「安藤さんは……美緒のことが好きなのではないですか?」 彼女の神姫・パティが大砲を放った。 美緒はその場で転げ回る。 がば、と上げた美緒の顔は、これ以上ないほど真っ赤だった。 「んなっ……何言っちゃってんの、パティ!?」 「美緒と一緒にいるときの安藤さん、とても楽しそうでしたし……憎からず思っているのではないかと」 「そんなこと……安藤くんがわたしを好きだなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないわ」 そう、あり得ない。 その可能性を、賢い美緒が考えなかったと言えば、嘘になる。 だが、美緒はそれを自ら強く否定した。 彼と自分とでは、何もかも違いすぎるのだ。釣り合いが取れないし、なによりそんなことを考えること自体が厚かましい。 だが、パティは首を傾げる。 どうして自分のマスターは、こう自分を過小評価するのか、と。 神姫である彼女の贔屓目を差し引いても、美緒は美人であると思う。 もっと自信を持てばいいのに。 それに、気のない女の子をわざわざ自宅に呼んでまで、神姫の相談をするだろうか。 別れ際に連絡先の交換なんて、気になる相手でなければしないのではないか? パティは冷静に、そう分析していた。 マスターと神姫の思いは平行線をたどりつつ、夜は更けていった。 続く> Topに戻る>
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「フチがかなりほつれて来ているな・・・」 クイントスお気に入りの濃紺のマントは、もう既にあちこちが擦り切れて、ぼろぼろになって来ていた 川原正紀の神姫となってすぐの頃に、仕事に着いて行った先で買ってもらった物だ 彼女に対して川原がした最初の直接的物質的なプレゼントであり、彼女の性格を決定付けたアクセサリでもあった が、リアルバトルの際は外しているとはいえ、長い事使っていれば修復も追い付かなくなる・・・試合が終わったら新しいのを買って貰いに行こうかな・・・と、柄にも無く思った 鳳凰杯編 「武の花の咲く頃に」 ポッドに入る前に、兜を脱ぐ・・・熱気を孕んだ風を、人工皮膚で思い切り感じた 私には、戦場が与えられている 「どうしたんだいセロ?ポッドに入ってくれないと、もうすぐバトルは始まるが・・・?」 もともとマスターは、どちらかというとバトルには肯定的な方ではない。咎める様でも、急かす様でもない言い方だった 「マサキ、これはサイドボードにでも入れておいて貰えないでしょうか?」 兜を渡す。「何故?」という様なマサキの問いの表情を、私は黙殺した 代わりに、本来外して臨むつもりだった外套を羽織ったまま、ポッドに入る ここでは私は挑戦者の一人に過ぎない 戦術的価値の薄いアクセサリのマントを付けて戦いに臨むというのは、「王者の余裕」を演出する上では効果的かも知れないが、今此処での相手からとってみれば、自信過剰の滑稽な猿芝居だろう それも、かなり痛んだマントだ ・・・だが、今私は、この熱気を、気温ではなく、闘いの熱気を、戦場へ持ち込みたかったのかもしれない ヴァーチャルの空へ、私の心を使って・・・ 『バトル、スタート!!』 同時に、引き抜いた『神薙Ⅱ』を両手で掲げ、叫ぶ 「我が名は『クイントス』!完璧なる紺碧の剣なり!我が音速の剣閃を恐れぬならば、その全能全霊を持って掛かって来るが良い!!!」 ここ迄の舞台でその手の名乗りをしたのは、流石に初めてだった 相手のハウリンを見据える・・・喋っている内に襲い掛かって来ても対処しようと思っていただけに、沈黙が少し気になった 「・・・・・・ならば私も名乗ろう、私は『司狼』お前が音速の剣ならば、私は縮地だ・・・ゆくぞ、ナイヴスロッテ!!」 空気を爆発させて、『司狼』のダッシュブースターが火を噴く・・・機動力は外付け機器に頼るタイプか?確かに速いが『縮地』を名乗れる程のものとは思えない・・・否! 光が、私の視界の隅を通り過ぎた ダッシュブースターに『押される』様に加速していた『司狼』が、途中から、ダッシュブースターを『引きずる』様に加速し、間合いを一気に詰めて一閃・・・武器を持っているのがこちらからはっきり見えなかったあたり、レーザーソードの類だというのはほぼ間違い無い かわせたのは半ばは運だ、『司狼』のトップスピードは明確に音速を超えており、神姫の反射神経だけではこの密着距離で回避するのは恐ろしく困難なところだが、こちらのマントで私が僅かに膨らんで見えたのだろう。それで距離を測り間違えたのだ データと感覚のギャップが生じると感覚を信じるタイプと見た 通り抜けた『司狼』を追う・・・ダッシュブースターの性能差で、追いつくのは不可能だが、サイドボード無しで、彼女ともう一度向き合ってみたかった (次は、見切りに行く・・・!) 私は『神薙Ⅱ』を鞘に収め、居合いの構えを取った 「常盤平、あれ見ろ」 「なんスカ?先輩」 Dブロック最終予選の様子が映し出されたモニタを、年配のカメラマンは指差していた Dブロック・・・サードランカーが最も多く混じり、ファーストランカーはゼロ、セカンドでも今ひとつパッとしない面子が集まっていたブロックだ だが (良い勝負をしてやがる・・・) セカンドではあるが、大きい大会には滅多に顔を出さない『クイントス』も、全くの無名であった『司狼』も、当然マスコミの注目度は低かったのだ 「凄いッスね・・・あの無名、セカンド相手に一方的に攻めてますね」 「・・・」 違う・・・と年配カメラマンは感じた 一見『司狼』が『クイントス』を圧倒している様に見えるが、何かが違う 「常盤平、すぐ調べろ、二分だ!」 「はっ?ハイっ先輩」 超小型のノートパソコン(携帯ではない)を操作し始める後輩 データは、すぐ集まった 「出ました!あの『司狼』っての、ランキングじゃ無名ですが、ストリートの野良試合じゃ有名な奴らしいッスね・・・なんでもそのスジじゃ150戦不敗とかって・・・先輩?」 「・・・常盤平、行くぞ」 「えっ?何スカ?先輩?鶴畑 興紀へのインタビューはどうするんスカーっ!?」 年配カメラマンは既に走り出していた 『司狼』は加速していた 既に3度斬りつけ、一度外す度に技はより精緻に、ダッシュはより速く、クロックアップさせていた 一度目で全力を出さなかった訳ではない だが今は、機体とダッシュブースタの限界をやや超えた所で攻撃を繰り出しているにも関わらず (一度目は私のミスだ。二度目は当たりを外されて、神姫装甲の対レーザーコーティングでいなされた・・・それは判るが、さっきの三度目は何故だ?光剣があいつの機体をかすりもしなかったどころか、反撃を喰らいかけた・・・!?) ダッシュブースターに再び火を入れる・・・胸当てに大きな焦げ跡を受けた状態でなお、『クイントス』は刀を今度は肩に担ぐ様に大上段に構え直し、両足を開いて『司狼』を待ち構えている (・・・何故だ?) 「不可解か?」 突如、『クイントス』が言葉を発した 「はっきり言うが私はお前よりも速く走る事も出来無いし、単純な武器の切れ味ならばそちらの方が上だ・・・それでも尚勝てない事実が不可解ならば・・・」 「その疑問は、お前が今のお前の『本当の全力』を出し切った時に解けるだろう。少なくとも私は今迄そうやって闘い、勝ち、敗れ、多くのものを掴み取って来た」 クイントスは上半身の鎧を捨てた 「!?」 「驚くには値しない!私も何故さっきの反撃がお前に当たらなかったのかが不可解だから、現状の持ち駒で出来る事を試しているだけだ!!次こそは必ずお前を斬る為にッ!!」 『司狼』の顔に、知らずの間に笑みが浮かんだ 一気にダッシュブースターをフルパワーに、『司狼』が走る・・・! 併せて『クイントス』も走る。その速度は『司狼』からすれば並みの神姫とそう大差のあるものではなかったが、彼女が放つ気迫は、『司狼』が今迄出会ったどの神姫よりも凄まじい圧力だった 「・・・ぐ・・・おおおおおオォォォォォォぉぉぉッ!!!」 吼える、走る、そして『司狼』は『クイントス』に接触する寸前に ダッシュブースターを切り離した 交差する光と白刃 巨大なハンマーで殴られた様な衝撃で、『司狼』は吹き飛ばされ、その場に佇む『クイントス』は両腕が斬り飛ばされていた 「恐ろしい技の冴えだった・・・まさか切り結ぶ直前にダッシュブースターを自ら切り離すとはな・・・」 「・・・お前と・・・同じだ・・・私も私自身の力を信じ切れていなかった事に気付いただけさ・・・」 苦しげに呟く『司狼』、その体は既に白化が始まっており、少しずつ消え始めている 「・・・また会おう、ナイヴスロッテ・・・!」 「また会おう、縮地の」 完全にヴァーチャルスペースから消滅した強敵の居た跡に、入る前と同じ熱い空気を感じる 新しいマントは、決勝戦開始前に買って貰う事にしようと、決めた 「・・・グループA優出、『ミュリエル』。グループB、『レイア』。グループC、『ミチル』。グループD、『クイントス』。グループE、『ミカエル』。グループF、『燐』。グループG、『ハンゾー』。グループH、『ロッテ』。グループI、『花乃』。グループJ、『弁慶』。グループK、『ジル』。グループL、『エル』。グループM、『ルシフェル』。グループN、『ウインダム』。グループO、『アーサー』。グループP、『リュミエ』・・・か」 発表された決勝戦進出神姫の名を読んで、私は興奮と嫉妬、羨望と渇望を覚えていた 『れでぃ~~すえんどじぇんとるめん!!ようこそ盛大なる戦姫の祭りへ』 『さて皆さん、今ここに集いしは過酷な試練を超えた十六組の小さな姫とそのパートナー達であります。まずは苦難の道を勝ち抜いた彼らに賞賛の言葉を送りたいと思います…』 どっと沸く会場・・・もしかしたら私もあそこに居られたかも知れない・・・という想いが胸を締め付ける 順番に表示されていく優出神姫とそのマスターの顔写真 その中に『クイントス』『ウインダム』を見つけた時に、私は思わず跳ね上がった 「・・・っ!!」 だが、いかなる感情も仮定も、体を蝕むこの苦痛の前には無意味だった 『しかし、彼ら彼女らに待ち構えるは今までよりもさらに厳しい王者への道。己の名を広き世界へ轟かせる勝鬨を上げるものは誰なのか、しかと彼女らの放つ熱き輝きを目に焼き付けて欲しい。諸君に『五色の翼の杯』……聖杯の加護があらんことを……』 結局私は、医療クレイドルに身を横たえ、歯軋りしながらテレビで闘いを見守るしかないのだった・・・ 『それでは皆さんご一緒に!! 武装神姫バトル! れでぃ~~~~っ……』 『ゴーーーーーーー!!!!』 剣は紅い花の誇り 前へ
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戻る 先頭ページ 次へ 目次 インターバトル2「誤情報」 インターバトル3「エルゴより」 「固執」 「戯れ」 ※For adult only インターバトル2「誤情報」 「…………」 ぱかぱか。 「ま、マスター、どうですか……?」 ぱかぱか。 マスターは一瞬頭の中が真っ暗になり、立ちくらみを起こして倒れそうになった。 「まったく……」 「ご、ごめんなさい」 椅子に座り腕を組んで渋い顔をしているマスターの前の机の上で、アーンヴァル「マイティ」は恥ずかしさと申し訳なさと自分のバカさ加減に顔を真っ赤にして小さくなっていた。いや、もとから小さいのだが。 「シエンちゃんが、こうすればマスターが喜ぶって」 「奴の仕業か……」 マスターの言う「奴」とはハウリン「シエン」のことではなく、そのオーナーのことである。 「ココちゃんも、言ってましたよ」 「…………」 かの魔女っ子神姫ドキドキハウリンのことである。 マスターは大きなため息をついた。 シエンのオーナーは確信犯だろうが、ココのほうはおそらく実践する前に教えたのだろう。今頃どうなっているだろうか。 「ともかく、情報の真偽を見極めるのは試合でだけでなく、日常生活でも大事なことだ」 「はい……」 「まあ、今回は状況的に実践しなければ分からなかったからいい。実践して取り返しがつかない場合は大変だぞ」 「すみません……」 「……もういい。顔を上げろ」 「はい?」 なでなで。 いつのまにか頭をなでられていて、マイティは面食らった。 「あ、あの、マスター?」 「今回は俺の監督責任もある。もう落ち込むな」 「……はい」 マイティはマスターの指を抱きしめる。温もり。 ◆ ◆ ◆ ぱかぱか。 「ご、ご主人様。こうですか?」 「そう! そうだ! いいぞシエン! できればもうちょっと開脚しろ!」 「は、はい」 ぱっかぱっか。 「す、凄まじい破壊力だぜぇ……」 ケンは鼻血を素手でぬぐいながら、シエンの太ももを見つめていた。 「あの、ご主人様。そ、そんなに見つめられると恥ずかしい……」 ガチャ。 「ケン、次の試合の段取りが決まったよ」 控え室に舎幕が入ってくる。 「……二人とも、何してるの?」 「おゥ……」 「はうっ!?」 気まずい雰囲気がまたたくまに部屋内に広がった。 了 インターバトル3「エルゴより」 「ほら、着いたぞ」 マスターはコートの胸ポケットの中で終始俯いているマイティに呼びかけた。 「本当に、直るんですか……?」 沈痛な声色でマイティは主人を見上げる。 「ここの店長は確かな腕を持っている。大丈夫さ」 マスターは右手に提げた紙袋を揺らした。中にはマイティの愛車、 1/12ヤマハV-MAXが入っている。 二人はホビーショップ・エルゴに来ていた。 マスターの行きつけのショップである。 マイティを迎え、V-MAXを買った場所だ。 ◆ ◆ ◆ 河川公園のラジコンコース。日曜日の昼、晴れた日には、マイティはここでV-MAXを走らせるのが日課となっている。 天使のマークがプリントされた専用のフルフェイスヘルメットをかぶり、愛車にまたがるなりマイティはエンジンを始動。クラッチペダルを踏み込み発車する。小気味よくスロットルを回し、エンジンを吹かしてゆく。 小さなライダーが小さなコースを軽快に疾走する。ミニチュアエンジンの甲高い回転音がコースに響き渡る。1/12と言ってもV-MAXの最大の特長であるVブーストシステムはきっちり再現されている。縮小ゆえ構造の簡略化は致し方ないが、スケール換算するならばその挙動は間違いなくV-MAXだった。 エンジンの回転数が6000回転を突破する。6500回転を超えてからVブーストの本領が発揮される。小さなライダーを見に来たラジコン愛好者たちは固唾を呑んだ。 が、その時。 ばすんっ! 異音がした。直後V-MAXのマフラーから煙がもうもうと吹き出し、スローダウン。マイティは異常に気付き何度も後ろを確認しながら停車。安全のためバイクから離れる。 「マイティ、大丈夫か」 煙を上げる愛車を、メットをかぶったまま見つめるマイティの元へ、マスターが駆け込んでくる。 やっとマイティはヘルメットを脱いだ。不安の色を隠せていない。 「マスター……」 声を出した途端に、マイティは耐え切れず泣き出してしまった。 ◆ ◆ ◆ 自動ドアを開けると、入れ違いに大勢の神姫とオーナーたちがぞろぞろと帰るところだった。 「やあ、いらっしゃい」 店長、日暮夏彦がマスターを見つけ挨拶する。店長と呼ぶには若い。三年前に父親の後を継いでこのホビーショップを切り盛りしているのだった。 「店長、ちょっと頼みたいことがあるんだ」 マスターはオーナーたちの端っこを通りながら、カウンターへ近づく。 カウンターの横に設けられた1/12の教室の教壇に、胸像だけのヴァッフェバニーが鎮座していた。 「あら、こんばんはマイティ」 「こんばんは、うさ大明神先生……」 マイティもこの神姫の学校で学んだことがあった。 「どうしたの? そんな浮かない顔しちゃって」 「あ、その……」 「これなんだが」 マスターは紙袋からV-MAXを取り出し、カウンターへ置いた。 「こりゃ、うちでお買い上げいただいたV-MAXじゃないですか」 店長はV-MAXを持ち上げる。 「何か、あったんですか?」 「前の日曜にいつもどおり走らせていたんだが、急に煙を噴き出してな」 詳しくは彼女から訊いてくれ、と、マスターはマイティをカウンターへ立たせた。 「落ち込んでいても仕方がない。彼に話してくれないか」 「はい……」 マイティは、6000回転を超えたあたりから変な破裂音がして、止まってしまったことを話した。 「ははあ」 店長はそれでだいたいの見当がついたようだった。 「たぶん、バタフライバルブ関連ですね」 「バタフライバルブ?」 「Vブーストシステムの要の構造です。エンジンの回転数が6000回転を超えるとだんだんと開き始めて、8500回転で全開になってエンジン構造がツインキャブに変化するんです」 マスターは中盤からの強烈な吹き上がりを思い出した。 「おそらく、バルブのパッキンか何かが吹っ飛んで、燃料の混合気がいきなり大量にエンジンに入っちゃったんだと思いますよ」 「人間の過呼吸みたいなものか」 「良いたとえですね」 店長は作業台へV-MAXを乗せると、エンジンを外し始めた。 「直りますか?」 マイティはおそるおそる尋ねた。 「部品を交換するだけですからね。たしかバルブの予備はあったから、すぐ済みますよ。……あ、そうだ」 店長はマイティのほうへ振り返った。 「せっかくだから、メンテナンスのやり方、教えてあげるよ」 「えっ?」 「愛車は自分でいじりたいだろ?」 「あ、ありがとうございますっ!」 マイティは涙をぬぐって、作業台へ向かった。うさ大明神様ことジェニーも調整助手として作業台へ置かれる。 「部品飛ばさないでくださいよ。よけられませんから」 「わかってるよ」 店長はエンジンを取り出し終え、今度はエンジンそのものの分解に入る。 「さて、俺はどうするかな」 「あ、そうそう。神姫パーツの新製品、入ってますよ」 「そうか。見せてもらうよ」 マスターは神姫パーツの棚へ向かった。 棚の手前に新製品の台があり、そこに小さな箱が平積みされている。 うさぎさん仮装セット、黒ぶちメガネ、サイズ変更用バストパーツ、etc……。 むう、ほとんどが愛玩用のパーツじゃないか。 マイティに対して、このような愛玩用部品を買い与えることは全く無かった。マイティが欲しがるところを見たことが無かった。言わないだけかもしれないが。 そういえば、戸田静香嬢の作った服を着てみたいとは言っていたな。今度会ったときに頼んでみようか。 考えながら見ていると愛玩用でないパーツを見つける。 ストラーフ用らしき鎌に、白と黒、色違いの翼である。 マスターは白い翼を一箱取る。 一見仮装セットやメガネのような愛玩パーツの類に見えるが、裏を見るとれっきとした飛行機能をもつ背部パーツであることが記載されていた。 アーンヴァルの高速巡航性能を持つウイングバーニアとは違う、曲線で機動的な飛行が可能らしい。翼面への武装は出来なくなるが、その軽さは非常に良好な出力重量比を出す、と、かいつまんで言うならこういうことが書いてあった。 「ほら、こいつが問題のバタフライバルブさ。ここんところが割れてるだろ……」 カウンターではちょうどエンジンを分解し終えたらしく、店長の説明にマイティは熱心に聞き入っている。 とりあえず白い翼のみをカゴに入れて、マスターは対戦端末の方へ行く。 ここではランキングに関係のない対戦か、大多数のオーナーが所属しているサードリーグの対戦しか出来ない。 マスターはサードのランキングを参照する。検索キーワードに「片足 片脚 片輪 隻脚」と入力し、検索。 すぐに「該当なし」の答えが返ってくる。いるいないに関わらず、オフィシャルで二つ名は検索出来ないようだった。うろ覚えの名前を思い出して、今度は 「ルーシー」、そしてタイプに「ストラーフ」と入力してみる。 あいまい検索を使ったので該当名は102件。マスターはしらみつぶしに参照し始めた。 「終わりましたよ」 カウンターから声がかかり、マスターは端末を閉じる。102件の神姫の中で、目的のストラーフは見つけられなかった。片脚装備のストラーフはいるにはいたのだが、そのどれもが偽者、というよりはただの「まねっこ」でしかなかった。 「これを頼む」 マスターは白い翼のパーツを置く。 「はい。マイティちゃん、すごいですね。飲み込みが早くてびっくりしましたよ」 店長が元通りになったV-MAXをカウンターに置く。 「ついでにオーバーホールもやっちゃいました」 「ありがとう。いくらだ」 「あ、いや、いいですよ。翼のだけで」 「いいのか?」 「ええ。久しぶりに楽しかったし」 マイティはにこにこしている。 「……そうか。ありがとう」 「いえ」 マスターはすこし考えて、訊いた。 「一つ尋ねたいんだが」 「はい?」 「片輪の悪魔、もしくは、片脚の悪魔という二つ名の神姫を知らないか」 「…………」 店長はしばらく黙っていたが、 「それって、オーナーも左足が無いやつ、ですか」 「そうだ。すこし前、サードだった頃に戦ったことがある」 変に重そうな空気を察して、マイティはマスターのコートにもぐりこんだ。 「たぶん今は戦えませんよ。だって彼、今ファーストランカーなんです」 「なんだって?」 「知らないんですか?」 「ファーストのセンターには行かないからな」 ランキングの参照は、プライバシー云々とかいう面倒な理屈でセンターでしか参照できず、またそこではセンターの取り扱うランク以下のものしか見られない。ファーストのランクを調べるには、ファーストのセンターへ行くしかないのだ。 そしてファーストのセンターは、例外なくリアルバトルのための大規模な施設がある、スタジアムのようなところである。 「ともかく、いま彼はファーストです。破竹、って言葉がぴったり当てはまるほどの勢いでのぼり詰めましたから。時期的に見て、サードで戦ったのはたぶんあなたが最後ですよ」 「そうか」 マスターは驚く風でもなく、そうとだけ答えた。 「いろいろありがとう。それじゃあ」 「ありがとうございました。また来てください」 「またね、マイティ」 「さようなら、うさ大明神先生」 そうしてマスターはホビーショップ・エルゴを後にした。 「マイティ」 「はい?」 雪がしんしんと降る帰り道。マスターはマイティに言った。 「お前は、……ファーストに行く気はあるか」 「どうしたんですか? 急に」 「いや。もし行けるとしたら、の話だ。リアルバトルがほとんどの、危険な所だ。お前はどうしたい」 「うーん……」 マイティはすこし考えて、答える。 「マスターがそうしたいのなら、私はそれで」 テンプレートのような回答。神姫が本来答えるような。 だが言葉は同じでも、マイティはそれを自分の意志で言ったのだ。 「私も、あの片脚の悪魔ともう一度戦いたいです」 だからマイティは、そう付け加えた。 「そうか――」 マスターは安心したとも落胆したとも取れる微妙な、表情をして目をつぶった。たぶんそのどちらでもあり、マイティはそのどちらでもある悩めるマスターが好きだった。 「明日晴れたら、もう一度バイクを走らせに行こう」 「はい」 白い空がだんだんと暗くなり、夜が訪れる。 了 「固執」 仰向けに寝ながら、神姫スケール換算地上千メートルを、高速巡行するマイティ。 手足には軽量で対実弾防御力のあるカサハラ製鉄ヴァッフェシリーズのプロテクターを着込み、クリティカルな胸部には同根装備のアーマー、頭にはヘッドセンサー・アネーロをかぶる。 右手はミニガンではなく、アルヴォPDW9。アーンヴァルの実弾射撃武装はどちらもケースレス方式をとっている。飛び出した薬莢が飛行機動を阻害する恐れがあるためだ。とくに高速移動時にその弊害が見られ、だからミニガンは飛行時に正面へ撃つことができない。 背中のウイングユニットには、ありとあらゆる推進装備がくっつけられている。エクステンドブースター、ランディングギア。そしてヴァッフェシリーズのスラスター。融通の利く動きはほとんどできないが、一方向に集中したノズルは莫大な推進力を生み出す。アラエル戦のバトルプルーブを経て、各パーツの配置が一新され、よりパワーロスが少なくなった。 翼の一方に、バランスの低下を承知で、LC3レーザーライフルを搭載していた。この装備方法では飛んでいる方向にしか撃てない。巡行武装だと割り切っている。 ここはホビーショップ・エルゴの対戦ブースである。このたびの大改装でセカンドリーグにも参加できるようになり、マスターは二駅をまたぐ必要がなくなったのだった。 スペースでは対戦相手がいない場合、こうして一人でテストモードが出きる。トレーニングマシンが普及してから使われなくなった機能だが、現在でも律儀に入れられている。 「どうしてトレーニングマシン、使わないんです?」 店長が訊いた時、 「実戦に使われるフィールドの方が役に立つ」 とマスターは答えた。 確かにトレーニングマシンと実際に試合に使用されるフィールドには若干の差がある。しかしそれは本当に若干なもので、だから皆将来的な経費が押さえられるトレーニングマシンを買うのである。 マスターの家にも無論、トレ-ニングマシンはある。 「マイティ、どうだ」 バーチャル空間の中を飛び回るマイティに話し掛ける。 『やっぱり空気の重さが違います。マシンでできたような無茶な機動が、たぶん出来ません』 バトルスペースのマシンパワーに、やはりトレーニングマシンはかなわない。戦闘中はだいたい高速で動く神姫には、この差は場合によっては致命的な差となる。 マスターもマイティも、今、一種のマンネリを覚えていた。 バトルの成績は悪くはない。ファーストへの昇格はいまだ高嶺の花だが、それでも順当に戦えている。 バトルのアクセス料金、マイティの武装代、メンテナンス料金、武装神姫というカテゴリにかかる料金はすべて、いわゆるファイトマネーでまなかうことが出来た。 余談ではあるが、この「勝てばそれなりに報酬がもらえる」という制度が実現したことが、武装神姫の世界的な発展につながった一翼を担っていると言っても過言ではない。実現にあたっては「ゲームがけがれる」とか「ギャンブルだ」などという辛辣な批判ももちろんあった。 しかし結果として、良い方向に実現した。 第三次世界大戦も起こらなかったし、宇宙人の侵略もなかったのだ。ゲームに報酬が設定された所で、なんのことがあろうか。と、人々が思ったかどうかは分からないが。 閑話休題。 ともかくそれでも、何か初期のキラキラした感覚が鈍くなってきていることは、お互いに分かっていた。 その対処法が分からない。 結局問題は棚上げで、今に至る。 『Here comes a new challenger』 ジャッジAIが挑戦者を告げる。 テストモード中はオンラインオフラインに関わらず、対戦受付はオープンにしてある。当たり前だがシャットアウト機能は無い。対戦スペースにいるのはすべからく対戦許可とみなされるのだ。 相手はオンラインからだった。 『よろしくお願いします』 当り障りの無い挨拶。女性らしい。 「よろしく」 マスターは適当に答える。 相手はセカンド。大体自分と同じような戦績。いや。 最近特に伸びてきている。 マイティがいったん待機スペースへとリターン。 『どうします?』 「例の機能を使ってみようと思う」 『じゃあ、初期装備はこのままですね』 「なるべく広いフィールドの方が良いが、狭くてもすぐ対応できる」 『分かりました』 マイティ、準備完了。 すぐに周囲のポリゴンがばらばらになり、フィールドが再構成される。 『バトルスタート。フィールド・地下空間01』 広大な空洞。高さもあるが、下は一面湖だった。所々に浮島があり、またいたるところに石の柱が立っている。 一方の入り口から、マイティが巡行飛行状態で入場。 もう一方から入ってきたのは、ストラーフタイプだった。 かなり軽装である。 ヴァッフェシリーズのブーツを履き、大腿と手首には同根装備のスパイクアーマーをそれぞれ取り付けている。胸部はハウリンの胸甲・心守。 頭部にフロストゥ・グフロートゥ、二の腕にフロストゥ・クレインを装備しているが、あれでは武器を使用できない。アクセサリーと割り切っているのだろうか。 主武装が新装備のサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーと、二体のぷちマスィーン、肆号とオレにゃんしかなかった。プチマスィーンはどちらも射撃用のマシンガン。 何よりも特徴的なのは、メガネをかけていることだった。 「軽装備……?」 それに装飾が過ぎる。 マイティは疑問に思った。 『何か仕込んでいるのかもしれない。気をつけろ』 「了解」 そのまま巡航で近づく。ためしにレーザーライフルを二、三発撃ってみる。 ストラーフが消える。 「!?」 『光学迷彩だ。センサーをサーマルに切り替えろ』 「は、はい」 「はっずれ~♪」 真上から声が聞こえた。背筋が一気に凍りつき、マイティは慌てて後方にマシンガンの 銃口を向けようとする。 がごんっ 胸部をしたたかに打たれ、マイティは失速。落下した。 「な、なに?」 マイティは何が起こったのか分からず混乱した。姿勢を制御するのを忘れる。 『マイティ、機体を起こせ!』 はっ、と気づいてフラップを最大限に傾ける。 水面すれすれでマイティは水平飛行に移る。水しぶきが上がる。 胸部アーマーがべっこりとひしゃげていた。ストラーフは鎌の背でなく、刃で打った。アーマーが無ければ負けていた。 「マスター、今のは!?」 『分からん。瞬間移動に見えた。今解析している』 『調べても無駄よ』 相手のオーナーが言った。 『本当に瞬間移動ですもの』 『何?』 マスターのモニターに相手の画面が現れた。眼鏡を掛けた黒髪の女性。 『公式武装主義者(ノーマリズマー)のマイティに会えて嬉しいわ』 『もう二つ名がついているのか。光栄だな』 『セカンドながらあの鶴畑を倒した実力派ですもの。神姫に入れ込んでいる人間なら、だいたい知っているわ』 『さしずめそちらは特殊装備主義者(スペシャリズマー)というわけか。マイティ』 「は、はい」 『装備Bに切り替える』 「分かりました」 マスターがコンソールを操作する。 マイティはウイングユニットを丸ごと切り離すと、浮島の一つに着地。シロにゃんにコントロールが移ったウイングユニットは、ランディングギアを浮島に落とす。 『サイドボード展開。装備変更』 マイティの脚からブーツが消え、代わりにランディングギアが瞬時に装着される。肩と大腿のプロテクター、そしてひしゃげた胸部アーマーがポリゴンの塵と化し、ふくらはぎのアクセサリポケットが肩に移動。 武装にも変更が加えられた。アルヴォPDW9が消失し、カロッテTMPが出現。 左手首のガードプレートが、右手首同様ライトセイバーに代わる。 予備武装としてランディングギアにバグダント・アーミーブレードを装備。 最後に、天使のような翼が背中から生える。「白き翼」だ。 『飛び方は覚えているな』 「はい。さんざん練習しましたから」 『よし、行け』 ひと羽ばたき。それだけで、マイティは相手のストラーフの立つ浮島へ急速に接近した。 バララララララ 接近しつつTMPを撃つ。 ストラーフはまたもや消失。真左に反応。 左を向いて確認する隙も惜しんで、マイティは反射的に左手のライトセイバーをオン。そのまま切り付ける。 「おっと」 ストラーフは、上、に避けた。 間違いない。こいつは飛べるのだ。 どうやって? 『原理は不明だが瞬間移動が主な移動手段だ。姿勢制御による若干の移動を、頭と二の腕 のブレードと手足でやっている』 マスターが解析した。 なんて飛び方! 後方からがっちりと拘束される。 「おしまいね」 ストラーフがくすっ、と笑う 鎌が首筋に当てられようとする。 マイティは両肘で相手の腹を打つ。 「やばーん!」 飛び去りながら、ストラーフが叫ぶ。 「うるさいっ」 マイティはTMPを精密射撃。 しかし鎌をくるくると回転させ盾にされる。 二体のぷちマスィーンズが反撃の連射。 マイティは白い翼を前方で閉じる。 翼の表面に銃弾が当たる。が、ダメージは無い。翼は盾にもなるのだ。 「ばあ」 翼を開いた途端、目の前に舌を出したストラーフ。瞬間移動だ。 ガキンッ! 突き出された鎌を、TMPで受ける。TMPは壊れて使い物にならなくなった。 ライトセイバーを伸ばす。ストラーフはあろうことかぷちマスィーンを盾にして後退。マスィーンズは爆砕。ポリゴンになって消える。 「マスター、瞬間移動のパターンは!?」 『今のところ直線距離でしか移動していない』 つまりいきなり後ろに回り込まれることは無いということ。だが、横に移動した後、後ろに、と二段階を踏めばそういった機動も出来てしまう。 あまり意味が無い。 「そうよ、この瞬間移動は自由自在なのよ」 マイティの懸念を見透かしたかのように。ストラーフは笑った。 「しかも」 真横。 「何度も使えちゃう」 真後ろ。 「くうっ……!」 マイティは宙返り。ランディングギアでオーバヘッドキックを浴びせる。 「きゃんっ!?」 頭に命中。ストラーフは急速に落下する。マイティはアーミーブレードを両手に装備。 「やったわねぇっ」 浮島を蹴り、目の前に瞬間移動。 予想通り! マイティはブレードを振り下ろす。f 瞬間移動した直後は瞬間移動できない。当てられる! しかし、ストラーフは消えていた。 「予想通り」 頭上から声。姿勢制御による限定機動! 「お返しよ♪」 頭をぶん殴られ、マイティは一瞬気を失う。 屈辱。殴られるのは一番そう。これは人間も神姫も変わらなかった。 「シロにゃん!」 「にゃーっ!」 いつのまにか接近していたウイングユニットがストラーフに体当たりを仕掛ける。 「そんなハッタリ無駄!」 ズバッ 鎌で一刀両断。ウイングユニットは消えてしまう。 『主義と固執は違うのよ』 ストラーフのオーナーが言う。 『何を……』 『通常装備だけではおのずと限界がある。あなたも薄々感づいているはず』 『何が言いたい』 マスターは苦虫を噛み潰したような顔をした。 『あなたの実力ならファーストには行けるでしょう。でも、ファーストでは固執は許されないわ。認められたあらゆる手段を使わなければ勝てない場所よ』 『アドバイスのつもりか』 『あなたがあの片足の悪魔と戦いたいのなら、ね』 『……!!』 その名前が出てきたことに、マスターは驚きを隠せなかった。 モニターから嫌な音がした。 ストラーフの鎌が、マイティの額を刺し貫いていた。 驚愕に目を見開くマイティ。ポリゴンの火花を撒き散らして、消滅。 『試合終了。Winner,クエンティン』 マスターは初めて、相手の神姫の名前を知った。 マスターはしばらく、コンソールに手をつきながら前を見つめていた。 ハッチの開いたポッドに座り込みながら、マイティはおどおどするしかない。 「帰るぞ」 唐突にそういわれたので、マイティは立ち上がる際転びそうになってしまう。 ねぎらいの言葉を掛ける店長も無視して、マスターは足早に店を出た。 了 「戯れ」 ※For adult only ぱかぱか。 「うーむ、やっぱり何度見ても素晴らしい……」 ぱっかぱか。 「ご主人様、口調が変わってます」 股を開いたり閉じたりしながら、私、犬型MMSハウリン『シエン』は言った。 あれからご主人様は、毎晩のように私にこの、……その、「ぱかぱか」をさせる。 正直に言って何度やっても恥ずかしくて仕方が無いのだが、ご主人様が喜ぶなら,と、私は拒否しない。まあ、そもそも、やれと言われれば神姫に拒否権など無いのだけれど。 それに、これを始めてから一向に気になってしょうがないものがあるのだ。 ご主人様の股間部の、ふ、ふ……ふくらみだ。 私のこの行為でご主人様が欲情しているというのは、役に立っているところは嬉しいのだが、素直に喜べない所は、ある。 それにご主人様はあそこを大きくさせるだけで,行為に及ぼうとはしない。こんなことを言うのも悪いが、躊躇無くやるような外見をしているというのに。こんなこと考えるのは神姫としてありえないことだろうか。バグが発生しているのかもしれない。ずっとATに乗って揺さぶられて戦っているから、ノイズか何かが拡大しているのかもしれない。少なくとも今は、定期的にスキャニングしても何も出ない。 いたって正常。 でも……。 私はついに思い立つ。 ぱかぱかをやめて、座る。 「ん、どした? もう嫌か?」 私はテーブルを降りて、迷うことなくご主人様のふくらみの前に降り立った。ぽす、と座布団が小さな音を立てる。 「すみません。動かないでいてください」 「お、おい!?」 声をあげるご主人様を無視して――無視できるということはやっぱりバグってるのかもしれない――、私はズボンのファスナーを下ろす。そして中のトランクスをずらした。 ぼろん、と、ご主人様の巨大な一物が私の前に躍り出た。べち、とぶつかってしまって、転んでしまう。 「し、シエン……」 「大丈夫です。楽にして、差し上げます」 私は起き上がって、両手で彼のモノを抱きかかえる。雄の臭いが嗅覚センサーを刺激す る。嫌な臭いじゃ、ない。ご主人様の、ニオイ。 好き――。 私は恍惚状態に落ちながら、小さな舌を竿に這わせる。 ちゅっ、ちゅる……ぺちゅ、れるれる。 淫猥な音が部屋に広がる。食物を消化できる神姫は、唾液だって分泌できる。人間のそれとは大きく成分が違うが……、こういう用途に関しては、効果は一緒だ。 「ぐ、うぅ……」。 ご主人様が耐えられず、横になる。 私は彼の上に乗って、足も彼の肉棒に絡みつかせる。 熱くなっているのが分かる。彼のモノも、私自身も。 全身から分泌される汗、冷却液さえ、潤滑油にして満遍なくまぶす。 これくらいでいいでしょう。 私は全身を使って、ご主人様のものをしごき上げる。なめることも忘れない。 くちゅっ、ぷちゃっ、ぢゅにゅっ、ぬちっ さらに激しく水音が響く。 もう彼の臭いが私に移っちゃっているかもしれない。 でも、損なのは気にならない。むしろうれしい。 カリの裏側を、舌でねぶり、手でこする。男の人はここが気持ちいいのだ。どこで知ったかって? それは秘密。 「うおぉ……」 気持ちよさそうにご主人様がうめく。とろとろと先走り汁がにじみ出てきて、私の体を汚していく。 私の中から快感の波がやってくる。神姫だって気持ちよさを感じるプログラムはある。アングラの愛玩用素体など使わなくたって。 「あぁ、はっ、ふうう……」 声を漏らしてしまう私。こんなにエッチな声が出せちゃうんだ。 さらにトリップしつつ、動きを激しくする。 ぢゅ、ぐちゅっ、ずちゅ、むぢゃっ 「ご主人様、気持ちいいですか、はうっ、気持ちいいですか?」 私の声はご主人様には届かない。彼は快楽に身をゆだねているだけだ。私だって、もう何を言っているのか分からなかった。 一物が一段と大きく膨らみ、根元から熱いものがこみ上げてくるのが分かった。 あ、そろそろ、イきそう。 「だめだ、シエンっ……そろそろ、出ちまう」 「いい、ですよぉっ……。出してっ、ください。わ、私に、かけてくださいっ!」 「ぐおぁっ!」 びびゃっ! 精液がてっぺんから勢いよく飛び出した。 びゅぐるるっ、びるびっ、びゅるっ、びるるぅっ! 「ああっ、熱い! こんなに、いっぱいぃ!」 大量の白濁液が、真上から私に滝のように降り注ぐ。 一段と濃いオスの臭いが私のボディの上から下まで染み付いてゆく。 びゅびぅっ、びゅるぐっ、ぶびゅるっ、ぶゅるるるっ! 「ご、ご主人様、ごぼ、おぼれちゃい、ますぅ……」 彼の液体に浸かりながら、私は気を失った。 それからどうしたかって? どうもしませんよ。私たちはいつもどおり、ATに乗って戦って、ファイトマネーをもらって食べていってます。 ただ私は、毎晩体を洗うのが日課になりましたけれど。 了 戻る 先頭ページ 次へ
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鋼の心 ~Eisen Herz~ 第21話:夜明けの翼 「ほほぅ、VR(バーチャル)は初めてなのだが表とあんまし変わんないのな~」 「僕は起動してからの一週間で、50時間は篭ってました」 はしゃぐマヤアのすぐ隣、感情の無い声で呟くセタ坊。 少し目がウツロで、虚空を見詰めている。 「……ますたー、止めて下さい、止めて下さい。……3時間以内に命中率100%にしないと尻尾引っこ抜くとか、マジ外道です」 「んゆ、セタ坊?」 「ぷち達も恐がってます、もう出来ません分りませんゴメンなさい許してください、わふぅ~っ!?」 「……むにに、セタ坊が壊けた」 『ふふ…。懐かしい思い出ね、もうあれから3ヶ月も経ったなんて……』 『いや。普通に神姫虐待でしょ、こういうの』 『雅さんの愛情は祐一君以外にはネジくれてますからねぇ、ははは』 『……ははは。じゃねぇよ』 「ダメです、この的動いてます、なのに外しちゃダメとか無理です、出来ません、嗚呼止めて、一発外すごとに尻尾1ミリ切るとか酷すぎです、そんな、三つ編みとか信じられません、尻尾三つ編みにされたらボクの人生お終いです、一生三つ編みされたミットモナイ尻尾でわふわふ逝ってるだけの駄犬ですか、ゴメンなさい、ヘタレでゴメンなさい、息しててゴメンなさい、存在しててゴメンなさい、ウマレテキテゴメンなさい……」 しゃがみ込んでぶつぶつ呟くセタに、さすがに浅葱も顔を顰める。 『……雅、アンタ本気で犯罪よ、こういうの……』 『愛の鞭よ』 『死をも厭わない鞭に、愛の名を関するのは如何なものかと……』 『ほ、ほら。獅子は我が子を千尋の谷に叩き落すって言うじゃない、そういうものよ。……多分』 『……多分、ってあんたね……』 『千尋の谷に突き落とした挙句に、上から煮えたぎった油を注ぎこむような厳しさですねぇ……』 「あー、よく分からんが―――」 人間同士の会話に加わるマヤア。 「―――要するに、セタ坊は雅んにメチャクチャ愛されてると?」 『よし、バカネコ良いこと言った!!』 「何処をどう聞けばそういう結論になるんですか~!?」 自閉症モードに移行しつつあったセタ坊は、マヤアの一言を機に図らずも復活を遂げた。 「え~っと、皆さんそろそろ宜しいですかぁ~?」 マヤアとセタの間に、デフォルメされたフォートブラッグが出現する。 「おおー、デルタちん。何時もよりも少しちっこくなったか?」 「……この端末CGは極小サイズだと思うのですが……」 「まぁ、そんな小さな事はどうでも良い―――」 『誰が上手い事言えと……』 「―――そんな事より敵は何処だ?」 「もうじき出現します」 『今、そちらに転送しました。すぐに現れますよ、戦闘準備を!!』 村上の声と共に、VRフィールドに歪みが生じてゆく。 「……所で。今更なんですが、『敵』って何なんですか? コンピュータウイルスとか?」 『いえ、このパターンは恐らく……』 「多分、武装神姫じゃん? データだけ転送してきたんじゃねーの?」 マヤアの予測が正解であることは、その次の瞬間に証明された。 『やはり、神姫……。それに、この形状は……』 VR空間をモニターする画面に映る姿はまぎれも無く武装神姫のそれ。 そして、機種不明でありながらも、ある意味雅たちにとっては馴染みの深い黒衣。 『……天海の幽霊……。土方真紀の武装神姫ですか……』 双刀と翼。仮面と黒衣を身に纏い、漆黒の神姫が降り立った。 ◆ 「……とりあえず、分った事が三つある」 「聞きましょう」 トドメは何時でも刺せる。 それ故に焔星はアイゼンの舌戦に付き合うことにした。 「……まずはお前の弱点……」 「……」 アイゼンが指差すのは、焔星に撫でられている二機のぷち。 「……そのぷち達は、性能の代償に稼働時間が弱点。……どちらも数分程度で活動限界になるでしょう?」 「そうでしょうか。……既にこの子達が参戦して10分は経っていると思いますが?」 焔星の指摘にアイゼンは頷く。 「……そう、だから補給が必要」 「そんな暇が、何時あったと?」 「……今」 言い切ったアイゼンの指先に、ぷちを撫でる焔星の手。 「……そうやって触る事で、お前はぷちに補給をしている……」 『どんな神姫だって、クレイドルとの接触で給電を受けるんだ。……その逆に、接触で電力を送るのは造作も無い事』 「なぜ、……そう思ったのですか?」 「……時々戦闘を中断してぷちを撫でてたし、さっきは後ろの砲撃型をわざわざ前線に出してまでボードアタックをしてきた。……そんなに効果的でも無い攻撃だったのに……」 『……つまり、あのボードアタックには攻撃以外の何か別の目的があったと言う事になる。……例えば、補給とか……』 「……ふむ」 『……そう考えればそのぷちの性能にも納得がいく。それだけの装備を運用するのにも拘らず、ジェネレーターを搭載せずにバッテリー駆動だけで稼動させていた。……だから、それだけの性能を詰め込めるわけだ』 「……なるほど、お見事です。……では、二つ目をお聞きしましょう」 「……お前の奥の手。……出し惜しみなんかしないで、さっさと“真鬼王”を出せば良い」 「……………………」 流石に絶句する焔星。 装備構成だけで奥の手まで暴かれるとは予測していなかった。 「見抜いたのは流石ですが……、今の貴女を倒すのに、わざわざ切り札を切る必要があると思いますか?」 「……それじゃあ、三つ目。……“真鬼王”を使っても、使わなくても、この勝負は私の勝ち、だ!!」 言って横跳びに距離を離すアイゼン。 同時にハンドガンの連射が焔星を襲うが、彼女はそれを難なくシールドで弾く。 「それが最後の武器ですか。……それこそ豆鉄砲と言うもの、私には通用しない!!」 反撃のプロトン砲は、アイゼンのハンドガンとは比べ物にもならない威力を持つ。 しかし、アイゼンもそれは承知。打ち合いを早々に切り上げ、回避に徹して距離を取る。 「逃す訳無いでしょう!?」 「……もちろん」 アイゼンは逃げ込むようにビル街へと移動する。 目的は焔星のセンサーに死角を作ること。 追われているアイゼン自身がそこに逃げ込むのは不可能かもしれないが、ノーマークのサポートメカがそこを通って接近する事ならば容易い。 「ちょこまかと逃げるなど、らしくない戦法ですね。……チーグルを失った時に貴女の敗北は決まったのです。大人しく負けを認めなさい!!」 「……そうでもない。……間に合った」 「?」 訝しむ焔星には、ビルの影から低空飛行でアイゼンに近付くそれが見えていない。 「……フランカー!!」 「ちっ!!」 猶予がないと気付いた焔星がアイゼンに向けプロトン砲を叩き込む。 閃光と轟音。 そして衝撃波。 この距離ならば、外した所で至近着弾は免れない。 今のアイゼンの機動性では、爆発範囲からは逃げ切れまい。 (……これで終わりですか。少々呆気無いような気もしますが……) そして、吹き込む疾風が爆風吹き散らす。 「―――!? 何!?」 爆煙が晴れ、プロトン砲の着弾痕が露になるが、その周囲の何処にも倒れたアイゼンの姿は無い。 「撃墜カウントも入っていない!?」 それはつまり、未だアイゼンが健在である証左。 「しかし、何処へ消えた!? 一番近いビルでも走って逃げ込むには時間が足りない筈なのに!?」 「……上」 「―――!?」 真上からした声に顔を向ける焔星。 そこに、吹き込んできた疾風の源。鳥に乗って空を舞うアイゼンが居た。 ◆ 「……」 声も無くたたずむセタ。 マヤアと組んでの2対1の戦闘ではあるが、セタに出来るのはただ見守る事だけだった。 セタには手が出せぬほどに、マヤアも黒衣の幽霊も速い。 打ち込んだ吠莱を魔弾で操り、必中を狙った直後。砲弾そのものを両断し、幽霊はマヤアとの高速打撃戦に突入した。 双方両手に刃を持ち、間断の間も無く打ち付け合う。 隙を狙って蹴りの応酬が行われ、突きと払いは一動作になって相手を追い詰める。 しかし、両者の力はほぼ互角。 目まぐるしく位置を変え、左右と上下を入れ替えながら剣戟の音を響かせた。 「ネコネコネコネコネコッ!!」 マヤアの振るったブレードを幽霊が刃で受け流し、その動作がそのままマヤアの首を狙う一撃に切り替わる。 マヤアが蹴りで肘を狙い、その一撃の阻止を試みれば、幽霊はもう一方の刃でマヤアの脚そのものを狙う。 レールガンがその刃と交錯する軌道に打ち出され、幽霊はマヤアを蹴って距離を僅かに離して仕切りなおし。 このような刹那の攻防が数秒程度の間に10度以上繰り返され、その位置は数十メートルの単位で瞬時に移動する。 飛び交う銃弾すらももどかしい高速戦闘において、最早セタの出る幕は何処にも無い。 「……こ、これ程とは……」 「うん、すごいよね幽霊……」 「……むしろ、マヤアさんに驚きなのですよ。……強いとは思っていましたが、これ程までとは……」 デルタのセリフ、5秒強の間に響いた剣戟は22回。 これ程の反応速度と、それを実行に移せるスピード。 手の届く範囲に入ってしまえばセタ如きでは話にもなるまい。 かと言って、精密砲撃だろうが誘導砲撃だろうが、まともに当たるとも思えない。 神姫としての実力が、ケタどころか次元単位で違っている。 そして、そんなマヤアと互角に渡り合う以上、幽霊の実力もそういうレベル、と言う事になる。 「……なるほど、誰も勝てない訳ですよ……」 デルタの声を、剣戟が上塗りしてゆく。 もはや、する事も見出せず、セタとデルタはただその戦いを見守るだけだった。 ◆ 「プレステイル!? ……そういう事か」 武装を失った筈のアイゼンの自信。 それが、もう一つ装備を持ち込んでいた事に由来するものだと、ようやく焔星も気付く。 「しかし、大勢は既に決しています!! ここで追加戦力など無意味にも程がある!!」 「……そうでもない。……プロトン砲の特性は、対空射撃に不向き」 「……っ」 確かに、着弾して爆発するエネルギー弾を撃ち出す以上、敵以外に接触物の無い対空射撃において、プロトン砲は直撃以外完全に無駄弾になる。 (光阴の速度では追いつけないし、闇阳の対空射撃だけでは捉えきれない……。) 先ほどまでのパワー重視の戦闘スタイルとは一転し、高い回避力での撹乱に入ったアイゼンは、ぷちの性能だけでは追い詰められない。 元よりぷちとの連携は重量級神姫との戦いに特化した戦法で、このような高機動型の神姫には対応していなかった。 (……その為の“真鬼王”ですが……、さて、それまで読んで居るのかどうか……) 祐一の読みどおり、焔星は確かに真鬼王モードを温存している。 だがしかし、それはアイゼンに対して使う必要が無いのではなく、用途の問題として不適切と判断したからに他ならない。 通常の真鬼王のイメージとは真逆に、焔星の真鬼王モードは高速戦闘に対応する為の形態だったからだ。 (……つまり、今が使い時ですが……) 何となく、祐一の掌で踊っているような錯覚に捕らわれ、焔星は苦笑する。 (……普通ならまず無い、一人の相手との戦いで全ての要素を使用する状況……。……私は彼にハメられて居るのかもしれませんね……) だがそれもよし。 元より主の望んだ戦いだ。 焔星は己が元にぷち達を呼び寄せる。 「……お望みどおり、見せてあげましょう。……真鬼王を!!」 焔星の宣言と共にぷち達がフォーメーションに付く。 分離、変形を経て焔星に組み付き、巨躯を構成するまで僅かに数瞬。 「三体合并……!! 真鬼王・零(ツェンカイワン・レン)!!」 二体のぷちとの合体により、焔星は真鬼王をその身に纏った。 特筆すべきはやや小柄である事のみで、その概要は通常の真鬼王と変わることは無い。 プロトン砲とデスサイズがシェルエットを崩してはいるが、むしろ違いはその内面にこそある。 「―――加速!!」 光阴を浮遊させるための揚力場と、闇阳を飛行させるための推進力。 その双方が焔星の背負ったジェネレーターと直結され、制限を解き放たれる。 焔星の真鬼王=零は、その名の通り一秒にも満たない時間で彼我の距離を“0”にした。 「斩(ツァン)!!」 「…ん」 アイゼンがハンドガンのトリガーを引いたのは、その一瞬だけ前の事である。 結果として焔星は、自ら虚空に放たれた銃弾に当たりに行く形になるが、アイゼンの行動は、焔星の零の性能を正確に予測したからこそ。 逆に言えば、零が動き出してからではアイゼンに反応する術は無い。 『行くぞ、アイゼン。アサルトフォームだ』 「……ん」 短く頷き、改造型のプレステイル=フランカー/フライトフォームを上昇させる。 限界高度に達しこちらも分離、変形を経てアイゼン本体に合体。 零と比しても小柄な人型を形成する。 ベースとなったエウクランテに酷似したシェルエットだが、翼は細く長く、腰の後ろには双発式の斥力場エンジンが唸りを上げ、その身体を宙に留めていた。 「……全システム高速戦闘モードに移行」 ≪Assault form wake up≫ フランカーに組み込まれたサポートAIのインフォメーションが響き、戦闘形態であるアサルトフォームへの移行完了を告げた。 変形に伴い、フライトフォームで中枢を成していたエンジンユニットは背部に回され、アイゼンはそこから小さな基部を一つ分離させ右手に収めると、主である祐一へと問う。 「……マスター、指示を」 『不慣れな高速戦だがやれるね?』 「……ん」 『それじゃあ全力で行くぞ。……斬り捨てろ、アイゼン!!』 「……んっ!! ……アクセラレータ、起動!!」 ≪system“Accelerator”starting up≫ 祐一の指示を受けて、弾かれるように突進するアイゼン。 その速さは、疾風のそれ。 もはや、ストラーフとは思えない速度を以って焔星に迫る。 「……ッ!?」 瞬時に眼前まで近付かれ、勢いに任せた蹴りを浴びる焔星。 間髪居れずに回し蹴りから後ろ回し蹴りへと繋ぎ、零の体躯が大きく吹き飛ぶ。 「速い!?」 驚愕する間もあればこそ、その一瞬で離れた間合いはアイゼンの突進で即座に詰められる。 「―――なッ!!?」 そして青い光の奔流が閃き、手にした大鎌が寸断された。 「ば、……馬鹿な……!?」 ≪“RayBlade”Disposition≫ アイゼンが手にしたモノは光の剣。 他ならぬ、カトレアと同じ超高出力型のレイブレードであった。 ◆ 「……なんと、愚策」 彼女は、それを見て詰まらなそうに呟いた。 ◆ 投刃と衝撃波、狙撃銃とリニアガンの中距離応酬から一転して、両者肉薄しての高速打撃戦。 目まぐるしく位置を変えながらの高速戦闘も終わりが近付いてきたようだ。 マヤアはとっくにライフルを捨ててしまっているし、黒衣の幽霊も新たに投刃を繰り出す気配は無い。 時折、開いた間合いを惜しむように翼からの衝撃波や背部ユニットのリニアガンを打ち合うが、即座に距離は詰まり打撃の応酬に戻る。 互いに消耗が進み、飛び道具が心許なくなってきたのだろう。 「……だからと言って、何が出来る訳でもないのですよ……」 「わふわふ」 戦場の端っこでお茶を啜るデルタと、尻尾のブラッシング(VR空間なので実は無意味)にいそしむセタ坊。 一応今でもマヤアをシステム的にバックアップしているデルタはともかく、セタに到っては本気で何しに来たのやらと言う有様だが、相手がアレでは仕方もあるまい。 「にゃーーーっ!!」 マヤア渾身の一撃が、幽霊の刀一つを途中からへし折った。 「……無為」 折れた刃を投げ捨て、幽霊は残る一刀でマヤアのフォビドゥンブレードを叩き落す。 「ニャ!?」 武装の喪失に伴う戦術パターン切り替えにより生じた微かな隙。 本来であればどんな神姫やオーナーでも無視する程極微の間断ではあるが、事ここに到ってマヤアと幽霊にとっては隙と呼ぶべく数少ない瞬間であった。 「……絶!!」 真横に振るわれた刀。 それが狙いを違わずマヤアの胴を薙ぎ……。 すり抜けた。 「―――!?」 バラバラになって落ちてゆくツガルタイプのアーマー。 と、それらが弾かれたように集結し、ひとつの形状をなしてゆく。 「……レインディア、バスター……」 幽霊の呟きも終わらぬうちに、自由落下から明確に意図された加速で機首を起こして上昇を始める。 「……」 そして、あの一瞬の攻防で上空に逃れていたマヤアを乗せ、突撃を開始した……。 ◆ 近接用のメインウェポンであるデスサイズを失い、焔星は大きく後退して距離を取る。 「……っ、これほどまでに高出力のレーザーブレードだとは……」 恐らくはプレステイルの中枢を成すボレアスユニットから射撃機能をオミットし、ジェネレーターとしての機能に特化させて得た高出力を流用しているのだろうが、分かった所で防ぎ様など無い。 「―――ならば、寄せねば良いだけです!!」 脚部に固定されたハンドガンと肩部のキャノン砲が展開し、アイゼンとの空間に濃密な弾幕を形成する。 「装甲を捨て機動力を取ったのでしょうが、それならば逆に小口径弾一つが致命傷になります!!」 先ほど使用したときにはチーグルの装甲に阻まれ、碌なダメージにはならなかったが、この飛行可能なユニットに同様の防御力があるとは考えられない。 故に、この弾幕を回避してから、レーザーブレードの一撃を狙う為に突進をしてくる筈。 (そこをプロトン砲で打ち落とす) そう考える焔星の元へ、アイゼンはしかし、一直線に突っ込んできた。 「……まさか、この弾幕に耐えられるつもりですか!?」 『元々アイゼンに回避主体の戦法が不向きなのは重々承知』 今までは基本的に、重装甲による防御主体のディフェンスを重視してきたのだ。 それを今更回避力ですべて置き換えられるとは、祐一もアイゼンも思っていない。 故に。 「……バリアの一つ位は用意してある!!」 ≪Hadronic field≫ アイゼンの周囲を覆う、薄い光の球体。 微かに青く発光するそれに阻まれ、弾幕が弾かれてゆく。 「―――ならば、プロトン砲でっ!!」 『怯むな、アイゼン!! シールド集中!!』 「…んっ!!」 砲口から溢れ出した白い光の奔流は、しかし、アイゼンの掌の先に広がるディスク状のバリアに阻まれ四方八方へと逸れてゆく。 「貫けぇーーーっ!!」 「……負けないっ!!」 プロトン砲と斥力場シールドの均衡は数秒続き、途絶えた。 「そんな……。チャージ容量の限界? プロトン砲の全力照射に耐え切るなんて……」 「……言った筈。私はカトレアを倒しに来た。……お前如きに負けてなど居られない」 プロトン砲の閃光が途絶え、幾分濃さを増したシールド越しにアイゼンの姿が見える。 「……これで、終わりだ」 「―――!?」 背部から切り離したエンジンユニットに追加砲身を直結させた『砲撃モード』。 「―――消し飛べ……。『フェルミオン・ブレイカー』!!」 ≪Fermion Breaker≫ 砲口からプロトン砲以上の白光があふれ出すのを、焔星は呆然と眺めていた。 「―――ぁ」 そして。 閃光と轟音に全てを押し流され、焔星の意識は途絶えた。 ◆ ガチャン。と音を立てて、破損した砲身が切り離される。 『勝った、か』 アイゼンのステータスに追加された撃墜数1。 焔星を下した何よりの証拠だが、その実、二人が対カトレア用に取っておいた切り札をここで使用してしまったことは大きい。 限定的とは言えブーゲンビリアのレーザーに近い威力を持つ『フェルミオン・ブレイカー』も使用回数2発の内1発を使ってしまったし。 なによりこちらの切り札が『レイブレード』である事は、最早カトレアには隠しておけないだろう。 元より対四姉妹戦を前提に開発された【フランカー】は、四姉妹の特化能力に対抗できる事を目的としている。 カトレアの『レイブレード』と『バリア』。 アルストロメリアの『機動性』。 ストレリチアの『移動速度』。 そしてブーゲンビリアの『高出力レーザー』。 これらの能力全てに対抗する為に、【フランカー】には変形能力と強力なエンジンから発生する出力を利用したレーザーブレード、バリア、そして陽電子砲が搭載されている。 しかし、土方京子と祐一の技術力の差は明白で、汎用性を落して尚、純粋な性能で及んでいないのが現状だった。 故に、勝機は不意打ちによる短期決戦しか無い訳だが、焔星の登場によりその予定は水泡と帰し……。 『で。今までのバトルロイヤルに居なかった以上……』 祐一が見すえるアイゼンの視点の中央。 ≪Warning!! NeXT enemy Engaging≫ AIの警告が促すその先に……。 『……ここで出てくる訳だな、カトレア……』 ジュビジーの装備で武装したジルダリア。 土方京子の四姉妹が長女。 カトレアが、そこに居た。 ◆ 「……カトレア」 「お久しぶり、と言った方が良いでしょうか?」 「……」 残存神姫は残り5。 未だ脱出した神姫が居ない以上、この五人の中で最初に敗れたものが予選で敗退する事になる。 「貴女は危険だと判断を下し、あのマオチャオ、アーンヴァルと共に最優先の警戒対象としていたのですが―――」 言葉を切り、アイゼンを見下ろすカトレア。 「―――どうやら見込み違いだったようですね……」 「……っ!!」 カトレアの右手から伸びる赤い光剣。 「いくら私達のマネをしても、その程度の技術力で神姫の開発に携わったマスターを超えることなど不可能―――」 最早アイゼンを脅威とは見ないしていないのか、無造作に歩を進めてくる。 「―――ましてや。……その様に無理やり詰め込まれた装備ではバランスなど望むべくも無い」 互いの間合いギリギリでカトレアは足を止めた。 「それで私に勝つつもりだったとは、笑い話にもなりません」 対峙するアイゼンは、未だ光剣を発振させては居ない。 出力で劣るだけでなく、稼働時間に天地の隔たりがあるからだ。 今から展開しておけるほど、アイゼンのレーザーブレードには稼働時間の余裕が無い。 「……実際、ストラーフの装備の方がまだ勝ち目があったと思いますよ? ……そのような私に対して勝る部分が一つも無い装備で、本気で私に挑むつもりなのですか……?」 光剣を構え、体勢を落すカトレア。 同様に、アイゼンもまた迎撃の姿勢を取る。 「……正直、失望しました。……貴女とはここで終わりにしましょう」 真紅の閃光。 高速で振り下ろされた光剣を辛うじて受け止めるアイゼン。 レイブレード同士が干渉し合い、閃光と耳障りなノイズ音を撒き散らす。 「……何も、対策が無いわけじゃない!!」 ≪“RayBlade”Re-disposition≫ 膠着状態を打破するべく、アイゼンがもう一本レイブレードを取り出し起動。 二刀を交差させカトレアを押し返す。 「ふんっ、……それが対策と言うのなら、下らないにも程があります」 カトレアは何もしない。 ただ、そのまま力ずくでレイブレードを押し付けてくるだけだ。 「……っ!?」 しかし、ただそれだけの事でアイゼンのレイブレードは二本とも干渉波で機能不全を起こして途絶えがちになる。 『……大元の出力が違いすぎる……!! やはりこれだけでは無理か……』 「機動性や速度でもアルストロメリアやストレリチアに劣るのでしょう? 先ほどの火力もブーゲンビリアとは比べるべくも無い!!」 「…っ!!」 「ましてや、バリアやレイブレードの性能で私に挑むとは、愚かにも程がある!!」 膠着状態を維持するのに集中しているアイゼンの無防備な腹部をカトレアが大きく蹴り上げた。 「…かはっ!?」 蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられたアイゼンに、悠然とカトレアが詰め寄ってゆく。 「……貴女なら、或いはマスターを止められるかとも思ったけれど……」 「くっ…、けふっ…!」 「……いえ。……元より望む事では、無いのでしたね……」 呟き、カトレアは光剣の切っ先をアイゼンに突きつける。 「……終わりです」 そして。 ◆ VR空間での決着が付いたのは、第四バトルロイヤルが終わるのとほぼ同時だった。 データ分解を起こし、消え往く幽霊の残滓。 仮面が消え、本体が消える一瞬のラグの中に、マヤアは幽霊の瞳を見た。 「……?」 そして、そのまま物言わず消滅する幽霊。 「……なあ、浅葱。あいつ死んだのか?」 『どうなの、雅?』 『どうなの、村上君?』 浅葱、雅を通じて村上まで上訴された質問に彼は静かに答える。 『いえ、コピーされた分身を倒しただけでしょう。神姫本体を如何にかしなければこの事件は終わりません』 『……そっか、ハッキングしてきたのが土方真紀の神姫だって事は、やっぱ黒幕は土方真紀で確定か……』 確証を経て、目的ははっきりとした。 「……あとは。土方京子からウイルスのサーバー本体の位置を聞き出すだけですね……」 『ええ、予選を突破していれば控え室で会えるわ』 「素直に教えてくれるでしょうか?」 『教えてくれないのなら、力ずくでも聞き出すまでよ』 冷徹に言い放ち、雅は視線を移す。 「……あとは、アイゼンさんが勝てるかどうかですか?」 『ま、それが一番の問題かな……』 雅の表情は硬く、中央制御室にあるモニターの一つ。 第四バトルロイヤルを映し出しているモニターを見据えていた。 ◆ 第四バトルロイヤル終了。 残機数4。 これで、本戦に出場する16名の武装神姫が出揃った事になる。 「……マスター、ゴメン……」 「まぁ、いいさ。次は勝とう」 ポッドから出てきたアイゼンを労う祐一。 カトレアとの戦闘は完全にアイゼンの敗北だった。 「祐一!!」 「祐一」 美空とリーナが駆け寄ってくる。 「ああ、二人とも……」 「祐一、その……、―――!?」 「どうしたの、二人とも」 美空とリーナのみならず、フェータまでもが絶句し祐一を見ていた。 いや、正確にはその背後に立つ女、を。 「久しいな、少年」 「京子さん?」 振り返る祐一の背後に、コートを着込んだ眼帯の女。土方京子が立っていた。 「……惨敗だったじゃないか。……私を止めるのだろう? このままでは、叶わぬぞ……」 「…………………はい」 祐一は静かに頷く。 「……でも、次は必ず勝ちます。……その為の【フランカー】ですから」 「……そうか、ならば何も言わん。……やって見せろ」 無言で頷き、祐一は意を返す。 「京子さん!!」 「なんだ?」 「本戦で、もしもアイゼンが勝ったら……」 「……勝ったら?」 「その時は、俺の言う事を一つだけ聞いて下さい……」 「……ふむ……」 興味がありそうでなさそうな、そんな微妙な表情を浮かべ、京子は微笑んだ。 「……よかろう。では私が勝ったらお前は私の言う事を聞いてもらう。……いいな?」 「はい」 その返事を聞き届け、京子は微笑を浮かべて歩み去る。 レライナを除く五人は、黙ってそれを見送った。 「で、どうするのよ?」 「……次は勝つさ……」 不安そうに尋ねる美空に、祐一は静かに答えた。 「……次はもう、負けられない……」 先のバトルロイヤル。 アイゼンに止めが刺されるより早く、他所で決着が付き神姫の残存数が4になった。 その時点で戦闘が終了した為、アイゼンも本戦に進出できたものの、結果としてみればカトレアには歯が立たなかった事になる。 「……もう、負けられないんだ……」 「ん」 祐一の肩の上で、アイゼンが応えて頷いた。 第22話:THE SECRET WISHにつづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る ど、ドラクエ5クリア……。 20時間位? 普通のRPGに掛かる時間ってこのぐらいだよね? と思う今日この頃です。 Aボタンがへこみっぱなしでなければもっとストレス無く遊べたでしょうに……。 ああ、ヨメはフローラで。 性能重視の人ですから、私。 閑話休題。 焔星の元ネタはファイブスターのマシンメサイア。 …と見せかけて、実はAC4fAで人から貰ったネクストの設計図(そっちの元ネタが多分FSS)。 回避最優先の軽量級にコジマキャノンとドラスレという無謀な装備がお気に入りだったり……。 まぁ、ソブレロに雷電グレ積んだグレ単ネクスト作った私が、無謀とか言えたもんじゃありませんが……。 残るはP4。 今回ペルソナに鈴鹿御前と信長が出るらしい……。 やべぇ、超楽しみ……。 ALCでした~。 -
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MMS戦記 外伝「敗北の代価」 「敗北の代価 11」 注意 ここから下は年齢制限のある話です。陵辱的な描写やダークな描写があります。 未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。 □ 重邀撃戦闘機型MMS「リカルダ」 SSSランク 二つ名「ミョルニル」 オーナー名「春日 凪」♀ 20歳 職業 神姫マスター 真っ赤に燃え滾るヒートナギナタを振り回し,戦国時代の武将のように名乗りをあげるリカルダに対峙する神姫たちは、ぽかんを口を開けて呆然と立ち尽くす。 オーナー1「な、なんだァ!?あいつ!」 砲台型C「あれがSSS級の化け物神姫、リカルダか」 悪魔型「び、びびるな!!!敵は一騎だァ!!!」 一瞬、神姫たちに動揺が走ったが、すぐさま体制を建て直し、リカルダを取り囲むようにじりじりと移動する。 春日はバトルロンドの筐体に備え付けられているタッチパネルを操作し、状況を把握する。 春日「残り、88機!敵は3つの集団に分かれている」 春日はマーカーで3つのくくりを作る。 春日「まずは集団A、陸戦タイプの神姫を中心とした大集団、数は50、どうせこちらの速度にまともについていけない、適当につぶしておけ」 リカルダ「イエス」 春日「次に集団B!!空戦タイプの神姫を中心だな、数は1ダース(12機)、機種はアーンヴァル、エウクランテ、アスカが多いな・・・まずはこいつらから血祭りにあげろ、皆殺しだ!」 リカルダ「OK」 春日「最後に集団C・・・砲戦タイプの神姫ばかりだな!数は20、機種は戦艦型4隻、戦車型6両、砲台型10台!鈍亀ばかりだ、うまく誘導して同士撃ちにさせろ」 リカルダ「了解」 春日はバンっと筐体を叩く。 春日「見敵必殺(サーチアンドデストロイ)!!!見敵必殺だ!!立ちはだかるすべての障害を排除しろ!」 リカルダ「Sir,Yes sir MyMasterrrrrrrr」 ヒュイイイイイイイイイイイイイイイ リカルダのリアパーツに装備されている巨大な素粒子エンジンが緑色に輝く粒子を撒き散らし唸り声を上げる。 巡洋戦艦型A「奴を倒せば兜首だ!賞金を手に入れて富と名声を手に入れろ!」 装甲戦艦型A「支援射撃を開始する!全神姫突撃突撃ィ!!」 数隻の戦艦型神姫が主砲をリカルダに向けて発砲するのを皮切りに再び神姫たちが吼えるように声を上げて、武装を手に掲げてドッと津波のように襲いかかる。 神姫「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」 リカルダはまったく臆することなく、巨大な素粒子エンジンを全開に吹かして真正面から突撃を仕掛ける。 リカルダ「あは、あはっはは!!この程度の数の神姫でこの俺を倒せるとでも?笑わせるッ!!!」 轟とエンジンを轟かせてリカルダは燃え盛るナギナタを引っ掴んで迎え撃つ。 砂漠を砂埃を立ち上げて、真っ先に攻撃を仕掛けてきたのは、ハイスピードトライク型 アーク、ハイマニューバトライク型 イーダ、モトレーサー型 エストリル、クルーザー型 ジルリバーズのバイク使いの4神姫だった。 バイク使いの4神姫はリカルダの姿を認めると、ばっと散開し一斉に手持ちのマシンガンやキャノン砲、ハンドガンで射撃を開始する。 リカルダ「遅い遅すぎるぜ、それで速く動いているつもりか?」 リカルダは地面スレスレをホバリングするように砂山や岩を盾に攻撃を回避し、ズンと地面を強く踏みしめると、同時に地面に巨大な亀裂と穴が穿つ。 パンッと空気が爆ぜる音がしたと同時に、ハイスピードトライク型 アークの紅の武装が異常な形にくにゃっと歪みバラバラに分解されて吹き飛んだ。 □ ハイスピードトライク型 撃破 真横を走っていたクルーザー型のジルリバーズの目が見開かれる。 ジルリバーズ「なっ・・・」 ぐしゃぐしゃに潰れたトライク型の後から破壊音が衝撃波となって届く。 ドギャアアアアアアアアアン!! チカチカと何かが光ったと思った瞬間、モトレーサー型 エストリルの薄いピンク色の体が黄色い閃光に飲み込まれて爆散する。 □ モトレーサー型 撃破 ジルリバーズ「あ、あああ・・・」 彼女の眼前で瞬く間に僚機が沈む。 あまりにも速い、度外れた速さ、圧倒的な凄まじい破壊の力に彼女は驚愕し見届けることしか出来ない。前方でハイマニューバトライク型イーダが変形を解除し、大剣を構えて対抗しようと、リカルダに攻撃を仕掛けようとするが・・・ 次の瞬間、ジルリバーズの横を薄緑色の塊が軽々と宙を舞いすぐ脇を通りぬけていく。 風が唸る。 ゴキン 鈍い金属音が聞こえる。その音の正体を最初は理解できなかったが、崩れ落ちるバラバラになった自分の体がジルリバーズの視界に移ると意味を理解した。 ジルリバーズ「は・・・はや・・・速すぎる」 □ クルーザー型 ジルリバーズ 撃破 ズドンズドンズドン!! 戦艦型神姫の砲弾がリカルダの周囲に着弾するが、リカルダはまったく意に介さず無視する。 リカルダ「おいおい、なんだ?その動きは舐めているのか?あああん?的撃ちじゃねーんだぞッォ!!!!!」 リカルダは顔を歪ませて新たな敵に向かって突進する。 音速を超え、超高速の剣戟に、対峙する神姫たちはまったく捕捉しきれなかった。 悪魔型「うおおおおおおおおおお!!」 巨大な刀を携えた悪魔型が雄叫びを上げて強化アームを振りかざし突撃するが、リカルダは悪魔型が刀を振るう前に胸部を突き殺す。 □ 悪魔型 ストラーフMk-2 撃破 間髪いれずに今度は巨大なハンマーを携えた白い悪魔型とソードを構えた黒い悪魔型が躍り出るが、リカルダは副腕のレールキャノンをくるんと廻して、胸部を正確に撃ちぬく。 □ 悪魔型 ストラーフ・ビス 撃破 □ 悪魔型 ストラーフ 撃破 脇を小柄な2体の神姫が槍と剣を携えて飛び出してきたが、リカルダは2体まとめて燃え盛る紅蓮の炎を纏ったヒートナギナタで文字通り薙ぎ払った。 □ 夢魔型 ヴァローナ 撃破 □ 剣士型 オールベルン 撃破 樹脂の溶ける焦げ臭い不快な匂いを撒き散らして四散する2体の神姫。 リカルダの強烈な攻撃の様子はさながら嵐のようであった、音よりも速いリカルダの攻撃は空気を引き裂き、爆ぜ、対峙する全てのものを打ち砕く。 次々に撃破のテロップが流れる。 まるで音楽を奏でるかのようにリカルダは縦横無尽に戦場を駆け回り、刈り取るように神姫を撃破していく。 □ 犬型 ハウリン 撃破 □ 猫型 マオチャオ 撃破 □ リス型 ポモック 撃破 □ フェレット型 パーティオ 撃破 □ ウサギ型 ヴァッフェバニー 撃破 □ 騎士型 サイフォス 撃破 □ 侍型 紅緒 撃破 □ 花型 ジルダリア 撃破 □ 種型 ジュビジー 撃破 □ サソリ型 グラフィオス 撃破 春日「30、31・・・」 春日はにやにやしながら腕を組んで数を数える。 怯えた白鳥型が大剣を盾に悲鳴をあげて後ずさるが、リカルダは大剣をガードの上から叩き割った。 ズン・・・ 真っ二つに引き裂かれた白鳥型の表情には驚愕の念が浮かんでいた。 彼女は決して弱い部類の神姫ではなかった。数多の戦場を先陣切って誉高く駆け、敵を討ち取ってきた武装神姫である。 だが、違う。 こいつは違う。 一刀両断されて始めて違いに気がついた。 こいつは普通じゃない。 白鳥型「ば・・・化け物め・・・」 □ 白鳥型 キュクノス 撃破 春日「32!!総数の3分の1を殲滅した、残り68!さっさと片付けるぞ」 春日は筐体の画面を操作して状況を把握する。 リカルダ「だめだ、弱すぎる・・・お話にならない」 参加していた神姫のオーナーたちはたった数分間で100体いた神姫の3分の1が潰滅した事実にただ言葉も無く息を呑む。 いま眼前で繰り広げられた戦い、リカルダの桁ハズレの強さ。 次々となすすべもなく撃破されていった仲間たちを見て陸戦主体の残った神姫たちは完全に戦意を喪失して、武装を放り出して逃げ始めた。 カブト型「だ、だめだァ!!こんなの勝ってこないよ!」 クワガタ型「ひ、ひィいいい」 ヤマネコ型「やってられるかよ!!!」 がしゃがしゃと手持ちの武器を捨てて逃げようとした瞬間、後方からチカチカと青白い光が瞬く。 建機型「!?」 ドッガアズガズッガアアン!! 装甲戦艦型A「撃て撃て!!撃ちまくれェ!!」 巡洋戦艦型A「逃げる奴は敗北主義者だ!!!敵もろとも攻撃しろ!!!」 重装甲戦艦型A「奴を倒せば1億円なんだぞ!!断じて引くな!!後退は認めん!!」 数隻の戦艦型神姫が味方もろとも無差別に砲撃を始め、瞬く間にフィールド内は阿鼻叫喚の地獄絵図に変わった。 ドンドンッドオドドン!!ズンズウウン・・・・ カブト型「ぎゃあああああああ!!」 虎型「ウワァ!!」 丑型「いやああああああああああ!!撃たないで撃たないでェ!!!!!」 猛烈な艦砲射撃がリカルダと周囲にいる神姫たちを巻き込んで行なわれる。 戦艦型の取り巻きの戦車型、砲台型も味方を撃つことに戸惑っていたが、手段を選んでいる場合ではないと悟ったのか、一緒になって見方もろとも攻撃を始めた。 □ 建機型 グラップラップ 撃破 □ 虎型 ティグリース 撃破 □ 丑型 ウィトゥルース 撃破 □ ヘルハウンド型 ガブリーヌ 撃破 □ 九尾の狐型 蓮華 撃破 次々とフレンドリーファイヤーの表示が出ながら撃破のテロップが踊る。 瞬時に周りは地獄と化した。その光景は凄惨そのものだった。目の前で多くの神姫たちが生きたまま焼かれ、重症を負い、そして粉々に砕かれて宙を舞った。 ズンズンズン・・・・ ものすごい爆煙と砂埃で砲撃地点は黒茶色の巨大なキノコ雲が立ち上り、ボンボンと神姫が爆発する音と赤い炎が巻き起こる。 上空を数十機の航空MMSが心痛な面持ちで眺めていた。 天使型「下は地獄ですね」 セイレーン型「うわあァ・・・」 ワシ型「イカレ野郎もろとも吹っ飛ばしてしまえ!!」 ワシ型が手を掲げてファックサインをする。 ドッギュウウウム!! 戦闘機型「おぐ・・」 戦闘機型の胸部を黄色い閃光が貫き、爆発する。 □ 戦闘機型 アスカ 撃破 爆煙と砂埃の中から勢いよくリカルダが飛び出し、真っ赤に燃え盛るヒートナギナタでワシ型MMSを一刀両断で切り捨てる。 □ ワシ型 ラプティアス 撃破 リカルダ「コイツァ最高だぜ、ふ・・・恥も外聞もなく味方もろとも攻撃してくるとはなァ・・・」 リカルダは笑いながら次々と航空MMSをハエのように叩き落としていく。 □ コウモリ型 ウェスペリオー 撃破 □ 戦乙女型 アルトレーネ 撃破 天使型「このおおおおおおおおおおおお!!」 天使型の一機が、上空からライトセイバーを構えて突撃してくるが、 リカルダは最小限の動きで回避し後ろを取る。 リカルダ「はずしやがったな!まだまだガキの間合いなんだよ!」 天使型「そ、そんな!!うわああああ!!」 ズッドン!! □ 天使型 アーンヴァル 撃破 天使型の頭部を跳ね飛ばした次の瞬間、リカルダを含む周囲の航空MMSたちにむけて葉激しい強力なレーザー砲の一斉射撃が加えられる。 ビシュビシュウウビッシュウウウウン リカルダ「おわっ!!」 あわててリカルダが回避する。 ズンズンズン!! □ 天使型 アーンヴァル 撃破 □ 天使型 アーンヴァル・トランシェ 撃破 □ 天使型 アーンヴァルMk-2 撃破 □ 戦闘機型 アスカ 撃破 リカルダの回りを飛んでいた航空MMSを強力なレーザーが貫き、空中に炎 出来た光球を作る。 重装甲戦艦型「ヘタクソォ!!貴様らどこを狙っている!!」 巡洋戦艦型A「ウルセェ!てめえが撃てっていうから撃ったんだろがァ!!!」 装甲戦艦型A「畜生畜生!!」 装甲戦艦型B「ひゃっはああーーー!!!もうだめだァ!!」 巡洋戦艦型B「なにをしている攻撃の手を休めるな!!!」 またしても後方にいる戦艦型神姫の一群が味方もろとも巻き込むのも承知の上で砲撃を加えてきたのである。 1度ならず2度までも、味方を巻き込む非道な攻撃を行い続ける神姫たちに観客たちはブーイングを鳴らす。 観客1「お前らさっきからナニやってんだよ」 観客2「このクズヤロウ!!さっさとしとめろ!」 観客3「誤爆誤射ばっかりやんてんじゃねーんだぞ!!このダボォ!!」 観客4「こいつらさっきから味方撃ちしかしてねえーーーーー」 観客5「なにがしてーんだよ!!このクソヤロウ!!」 グラスやゴミをフィールドにいる戦艦型に向かって投げつける観客たち。 オーナー1「うるさい!野次馬ァ!!」 オーナー2「黙れ黙れ!」 オーナー3「どーしようが俺たちの勝手だろ!」 オーナー4「戦いに誤射誤爆はつきものだろが・・・ボケが!」 オーナー5「装甲戦艦!!副砲撃て!!!あの野次馬連中を黙らせろ!!」 装甲戦艦型B「了解、モクヒョウ カンキャクセキ 撃ちかたーーーーーーーーーはじめ!!」 あろうことか、戦艦型神姫のうちの一隻が観客席に向かって副砲で発砲しはじめたのである。 ズンズンズズン!! 観客1「うわあああああああ!!撃ってきたぞ!!」 観客2「キャアアアアアアアアア!」 観客席の2階の中央のテーブルに砲弾が命中し、料理が爆発して飛び散る。 ドガアアアン!! 2階の観客席で春日たちの戦いを観戦していた神代の顔にべちゃっりとケーキのクリームが降りかかる。 脇に立っていたルカが悲鳴をあげる。 ルカ「きゃああ!!マスター大丈夫ですか!!」 神代が顔に付いたクリームを手で拭き取り舌でぺろっと舐めて片つける。 神代「大丈夫だ、問題ない」 バトルも観客席も戦艦型神姫の無差別な艦砲射撃で大混乱になる。 司会者の東條があわててマイクで放送を行なう。 「観客の皆さんはフィールド上の神姫にモノを投げないでください!!フィールド上の神姫は観客の皆さんに攻撃しないでください!!危険です」 フィールドにいる戦艦型が反論の激を飛ばす。 巡洋戦艦型A「最初に攻撃してきたのはアイツラだろ!!これは正当な反撃行為!自衛のための防衛行動だ!!」 装甲戦艦型B「戦艦に喧嘩売るとは上等じゃねえか!!ぶっ殺すぞ!!!!」 観客3「こいつらなんとかしろよ!!」 観客4「危ない!!危ない!!危ないよ!!」 観客5「おまえらは一体誰と戦ってんだ!!このボケカス!!」 春日はアッハハハと大声を上げてパンパンと手を叩いて喜ぶ。 春日「すばらしいこれこそ混乱だ!!戦場に混乱はつきもの!!最高じゃないか!!」 リカルダ「さあて・・・と残りはC集団のみ、ちゃっちゃと終わらせてやろう」 リカルダはヒュヒュンとナギナタを振り回し、突撃する用意に移る。 戦艦型神姫の一群と戦車型、砲台型が多種多様な砲口をリカルダに向ける。 戦車型A「パンツァー1より全パンツァーへ、敵は高速戦闘に特化した航空MMSだ、対空榴弾装填!!穴だらけにしてやれ」 戦車型B「パンツァー2了解」 戦車型C「パンツァー3了解」 戦車型D「パンツァー4了解」 砲台型A「砲撃モードに移行!焦るなゆっくり狙って確実に当てろ!」 砲台型B「畜生!ブチ落としてやる」 砲台型C[負けネーゾ] 重装甲戦艦型「全艦、全砲門開けェ!!火力で磨り潰せッ!!!!」 巡洋戦艦型A「火力とパワーはこちらの方が上だ」 装甲戦艦型A「一億円は俺のものだ」 巡洋戦艦型B「くそったれ、やってやる」 装甲戦艦型B「蜂の巣にしてやる」 ギラギラと目を光らせる大砲を主兵装備とする武装神姫たち 。 戦艦型神姫は巨大な体に据付けられた主砲をゴリゴリと動かす。一撃でも命中すれば神姫を粉々に粉砕できる強力なレーザー砲を搭載し、全身に対空機関砲とミサイルを装備している。単純な火力だけでは戦艦型神姫は最強クラスの戦闘能力を有する。また分厚い装甲に守られ、撃破するのは非常に困難だ。 戦車型神姫は戦艦型とはいかないまでも、強力な戦車砲とそれなりの厚い装甲を備えている。また何台かの同型の戦車型とコンビを組んで安定している。 砲台型もがっしりと地面に腰を下ろし、砲撃モードに移行し、優秀なFCSによって高い命中率と速射性能を有した滑空砲を搭載し待ち構える。 大型の戦艦型神姫、中型の戦車型、小型の砲台型のバランスの取れた鉄壁の布陣で、リカルダを待ち構える20機あまりの重武装の神姫たち。 リカルダとは対照的に、機動性を完全に最初から捨てて、がっしりと待ち構える神姫たちに隙はなかった。 こいつらは、味方ですら遠慮なく攻撃する下種だ。だが、その分勝つことには躊躇せず破壊的なオーラを纏っていた。 間違いなく強敵、そう感じ取った春日は内心、ほくそ笑んでいたが、命令を下す。 春日「大砲屋風情が調子に乗るなよ・・・リカルダ!!遠慮はいらん!!攻撃しろ!」 リカルダ「イエス、イエスマイマスター」 ぐっと身を固めるリカルダ。 さっきまで野次を飛ばして騒いでいた観客たちも一斉に押し黙る。 そしてひそひそと話し声がもれる。 観客1「まさか本当にあの砲火の前に突っ込むんじゃないよな?」 観客2「ありえんだろ?あの完璧な布陣になんの策もなしに突っ込むのは自殺行為だ」 観客3「あの陣形は点や線の攻撃なんて生温いものじゃない、面での攻撃だ」 観客4「面制圧か・・・この猛砲撃を掻い潜って奴らを殲滅できるとしたら、文字通り化け物だ・・・そんな神姫がいるのか?」 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>[[]] 前に戻る>「敗北の代価 10」 トップページに戻る
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ちっちゃいもの研の日常-02 ここは東杜田の片隅にある、ちっちゃいもの研・・・。 「CTaさん、ちょっとお願いします。」 見慣れない顔の男が、CTaに設計図のチェックを依頼している。 「うーむ、よしよし。 これでいいんじゃないかな。」 「あ、ありがとうございます!」 ダメ出し28回目にして、ようやく通った模様。 彼の目の下には、はっきり とした隈がうかんでいる。 ちょっと足もおぼつかない様子。 「・・・あのなぁ、いくら若いと言っても無理をしちゃいかんぞ。 あとで 言っておくから、先帰って寝ろや。」 彼は今年配属になった新人。なんでも、久遠のツテで本社へ入社したとかで、 当初からバリバリ仕事をこなし、ついには腕を買われてちっちゃいもの研へ 配属になったという経緯がある。 「はぁ、ありがとうございます。ですが、ちょっと私用で機材を使いたいの で、昼まではいることにします。」 というと、ちょっと頭を下げて自分の作業台へと戻った。 「ん〜? 何を作っているのかな〜?」 こそこそと隠れるように作業をする彼の元へ、CTaが行ってみると・・・ 武装神姫。 にやり、意味深長な笑みを浮かべるCTa。 「ちょ、ちょっと・・・何ですか・・・って、えぇ?!」 「いいモン持ってるねぇ。」 「ボクのマーヤに触らないで下さい!」 慌てて、伸ばされたCTaの手から、マーヤと呼ばれた「ツガル」を守る。 「ほうほう、だいぶ疲れている感じじゃないか。」 「もう、ほっといてください! ・・・先週の対戦で、左膝負傷しちゃった からねー・・・ ようやく手が空いたから、今治してあげるよー。」 「やさしくしてくださいね、おにいさま。」 そのやり取りに、CTa暴走。 「ぐわあぁぁっ!! おにいさまと、おにいさまと呼ばせたな!」 「な、何ですかいきなり!!」 背後からの叫び声に、びっくりして作業する手を止める男。 「認定! ちっちゃいもの研の、神姫使いリストに強制編入!」 「ちょ、ちょっと、CTaさん・・・。」 「ときにお前、神姫のメンテナンスはできるか?」 「はぁ・・・よほどコアが傷ついていない限り、治せる自信はありますよ。」 「よっしゃ! 決まった! お前、あたしの下、ナンバー2決定!」 「何なんですか、いったい!」 と、男が叫んだとき。CTaの白衣のポケットから、沙羅とヴェルナが顔を覗 かせた。 その姿に、男は驚き、固まった。 ・・・CTaさんも、神姫使い だったのか?! ということは、もしかして・・・自分は久遠さんにもはめ られてしまった可能性も・・・?! 混乱する彼にCTaは追い討ちをかける。 「それだけの神姫に対する愛、そして裏付けられた技術。 おまえ、あたし の一番弟子決定だわ。」 「はぁ?」 「はーい、拒否権無ーし。 いやー、困ってたんだよー。 最近、神姫関連 の修理だの研究だの、依頼が多くて多くて。あたし一人じゃ手一杯でさ。」 「そういうことだったんですか。」 「ただーし! 神姫とかをいじる人間は、ここでは偽名を持たなくっちゃい けないんだな、これが。 そーすっと、あんたの場合は・・・ 本名がアレ だからぁ・・・ 『Mk-Z』でどうだ。 うん、これがいい。 決定ね。」 言うが否や、CTaは近場の端末を操作し、研究所の所内用名簿から彼の本名 を抹消し、「Mk-Z」と冗談抜きで入れてしまった。 「あ・・・。」 悲しそうな顔をする、Mk-Zと名付けられてしまった彼。 「大丈夫。こうすれば、あんたもこそこそすること無く、存分にマーヤへ愛 を注ぐことができるのさっ!! どうだっ!」 「どうだ、と言われましても・・・」 「なにぃ? 嬉しくないのか?」 「い、いえ、嬉しいんですけど、なんか納得いかない気がして・・・」 「あんたが納得いかなくても、あたしは納得したからいいよ。」 「そ、そんな〜!」 悲鳴を上げるMk-Z。と、彼の手元へ、沙羅とヴェルナがやってきた。 「どうもっス! 沙羅って言うっス! こっちはヴェルナって言うっス!」 「よろしくおねがいします〜。 そうそう、先ほど関節がっ、て言っておられ ましたよね。ここに、マスターが作った削りだしの強化関節がありますので、 ぜひお使いください。」 そういいながら、ヴェルナはリゼにも使われているあの強化関節パーツを一組 差し出した。 美しく、鈍い光沢を放つパーツに、目を奪われるMk-Z。 「せっかくだから使ってくれよ。 あたしの弟子になってくれた以上は、悪い ようにはしないよ。 もちろん、通常業務の上でも、ね。」 ・・・変なノリで、変なところに転がり込んでしまった気がしない訳でもない。 でも居心地は悪くなさそうだな・・・。 こういう仕事も、いいのか・・・な? Mk-Zは、自分の置かれた境遇が、じつはとても恵まれているのではないか、 と思い直し、CTaにちょっと感謝をしていた・・・。 それから一週間後。 「はい、あーん。」 「・・・おにーさまー、この塩鮭、美味しいですー!」 「おー、そうかそうか。 じゃ、こっちの唐揚げもあげよう。」 「えっ! いいんですか? それでは・・・いただきまーす!」 昼休み、マーヤに仕出し弁当を分け与えるMk-Zの姿が。さっそく、CTaによって、 マーヤにも食事機能が搭載されていた。・・・いや、むしろ彼が進んで食事機能 を搭載した、と言うべきか。と、 「Mk-Zよぉ。さっき知り合いから電話があってな。 バトルに負けた神姫を叩き 壊したアフォがいたらしくて。 その神姫を、これから連れてくるそうなんだが、 お前に任せてもいいか?」 本来の医療関係の仕事の資料を山と持ったCTaが、Mk-Zに声をかけた。Mk-Zの 目つきがかわった。 「なんですと? 負けた神姫を、叩き壊した・・・だって?」 弁当にいったん蓋をすると、マーヤに命じた。 「マーヤ、受け入れ態勢を整えるんだ。」 「わかりました、おにーさま!」 「人間に叩き壊されたとなると、相当の傷を負っているだろう・・・。 任せて ください師匠! 神姫ドクター・Mk-Zの名にかけて、ちっちゃい心、救います!」 マーヤと並んでぐっと拳を挙げたMk-Z。 にやりと笑みを浮かべ、それに答えるCTa・・・。 ここに、ちっちゃいもの研「最強」の、神姫ドクターコンビが誕生した。。。 <トップ へ戻る<